そこでどのようなゲームデザインをすれば、プレイヤーがクリアしたくなるかを考えてみたい。
『クリアしたくなるゲームデザイン』となると、いわゆる『ヌルゲー』を想像されるかもしれない。けれど、ここで考えるのは難易度ばかりではない。
むしろ、初心者から上級者までを満足させるゲームデザインを考えていきたい次第。
※ところどころ過去に書いた内容と重複してしまいましたが、そこはおさらいと思ってご容赦ください。
プレイヤーが投げ出す理由
まずはプレイヤーがなぜクリアせずに投げ出すかを考えてみる。
- クリアできずに、心が折れた
- 戦闘、ストーリなどを含めてテンポが悪い
要するに面倒くさくて、我慢してまでクリアする動機がない。
- 長くて終りが見えない
- 後ろ髪を引かれて辛い
要するに取り逃しなどのコンプ要素の見逃しについて。
候補としては、こんなところだろうか。
この他にも「ストーリーやシステムが好みじゃない」という理由も当然あるだろうけど、当然取り扱わない。一記事で扱える範疇じゃありませんので。
上の個別に対して、対策を考えてみた。
クリアできずに、心が折れた
プレイヤーが作品をクリアしない理由は、クリアできないからである。
……そのまんま過ぎて説明はいらないですね。
実際のところ、大半のRPGは時間さえかければクリアできるようになっている。アクションやパズルのように何度やってもクリアできないなんて状況は、そうそうあるものではない。
凶悪といわれるファミコンのドラクエ2ですら、10時間〜20時間と経験値稼ぎに耐えられるなら十分にクリアできるはず。
……にもかかわらず、これは『クリアできない』と思わせるRPGは現に存在する。プレイヤーの心を折ってしまう何かが存在しているわけだ。
では、どう対処すればいいのだろうか?
難易度を下げる
一番に考えられるのは、やはり戦闘や謎解きの難易度が高いということ。その難易度を下げるのも一つの手段となる。
これについては、特に説明不要だと思う。
ただし、安易な解決法であることも否めない。
そもそもプレイヤーが挫折するのは、本当に難易度が原因なのかも疑っておきたい。
分かりやすい理由だけに、プレイヤーも制作者も「難しかったから」の一言で片付けてしまいがち。
【例】
プレイヤーの感想
「ダンジョンに三時間もかかって大変だったので疲れてしまいました」
制作者の解釈
「当作品は歯応えのある難易度になっているので、ライトユーザの方には難しかったかもしれません」
今の時代、ネット上などで制作者がプレイヤーの意見を受けて、反応を返すことは珍しくない。その中では、上記のような噛み合わないやり取りが展開されたりする。
※昔、どっかの企業で見た記憶があります。
上のような感想なら大抵の場合、『難しい』というより『面倒臭い』と表現したほうが正しい。
確かに『難しい』ゲームはプレイ時間が延びるため、『面倒臭い』傾向がある。しかし、言うまでもなく『難しい』と『面倒臭い』は別の概念。
そして、プレイヤーが挫折する一番の理由は『面倒臭い』であるということを主張しておきたい。そこを見誤ると、見当違いな対策になってしまう。
実際には「難しくても諦めずにクリアしたくなるゲーム」と「難しいのでさっさと投げたくなるゲーム」の差は歴然と存在する。
プレイヤーもその差を理解できず感覚的に「投げ出したのは難しかったから」という結論を出しているだけかもしれない。
というわけで、この記事では難易度を下げる以外の方法も積極的に考えていきたい。
長時間プレイを台無しにしない
長々とプレイした挙げ句に全滅。二時間前のセーブポイントからやり直し……。
というのは、プレイヤーの心を最も折る展開であり、やはり避けたい。
昔はFF3とか女神異聞録ペルソナとか色々とあったけれど。昔は昔。一時間、二時間とセーブをさせないゲームデザインは、さすがに時代的にしんどいのではないかなと。
そもそも、全滅のペナルティが大きすぎると、制作者だって思いきった難易度にするのは難しくなる。やり直しが気軽にできるからこそ、サガシリーズのボスはあれだけ強くても成り立つわけで。
セーブポイントは頻繁(常時セーブできてもOK)に、全滅時のペナルティは控えめを心がけてみよう。
上級者を過度に優遇しない
例えば少ないターンや低レベルでボスを倒すと、ボーナスを出すなどの手法を指している。
これをやる上での問題は、それができない初心者ほど不利になっていくということ。
特にボーナスの中身がレアアイテムだった場合、取り逃しが発生するという難点もある。これは長編RPGにおいて大変厳しい。
初心者冷遇の末に、心を折ってしまうのは避けたいところ。
よくあるのは、戦闘不能のキャラには経験値を渡さない仕様になっている場合。戦闘不能者がよく出る初心者ほど経験値に困る傾向がある。ボスなどの強制戦闘で、大量に経験値を出す場合は要注意!
上級者の優遇は、意図しないうちに成り立つこともある。
例えば、強制戦闘のボスを撃破した際に大量の経験値を与えると、レベルの均一化が起こってしまう。
- 中ボスの想定レベルが30。撃破すると経験値200000
- 大ボスの想定レベルが40
ちょっと極端な例になるけれど、「上級者は中ボスをレベル20で撃破」「初心者はレベル40で撃破」できたとする。
経験値200000を入手した場合、DQ3の経験値曲線を例にすると――
- 上級者:レベル20→32にアップ
- 初心者:レベル40→42にアップ
となる。
- 想定レベル−10で中ボスを倒した上級者なら、レベル32でも大ボスに挑めそう。
- 想定レベル+10で中ボスを倒した初心者は、レベル42でも厳しい。長時間の経験値稼ぎが必要となりそう。
というように初心者に厳しいゲームバランスになってしまう。
もちろん、「強敵を倒した報酬が欲しい」という意見もあるだろうし、ボス戦の経験値を奮発するのも一つの選択だと思う。とはいえ、ザコ戦の経験値とあまりに格差をつけてしまうと厳しくなってしまうことには注意したい。
ちなみに、強制ではなく任意で戦うボスは別にどっちでもよいと思う。
手詰まり感を抱かせない
- ボスが強くて難しい。
- だが、パーティを強化しようにも、既に装備は整えてある。
- レベルを上げても、大して能力が上がらない。
- 手詰まりになった。さて、やめようか。
……というようになって心が折れるパターンに心当たりがないだろうか。
慣れたプレイヤーならば打開策が思いつくかもしれないが、初心者もそうとは限らない。
というか、筆者はRPG上級者のつもりだけど、それでも心当たりはたくさんある。昔のドラクエ2みたいに取り得る戦術が少ないと起こりやすい。
対策としては下二つが参考になると思う。
金の使い道を常に用意
既に今購入できる最強装備をそろえているが、ボスに勝てない。
こうなると取れる手段が少なくなってしまう。それこそが手詰まり感を誘発する。
常に今以上にパーティを強化する手段を用意しておきたい。
ある程度インフレさせる
変化に乏しいと、パーティが強くなった感覚が得られない。
ボスが倒せない際に「パーティを強化すれば打開できるのは?」という実感が持てないと、プレイヤーは手詰まりを感じてしまう。
そのためにも、数値のインフレ率はある程度高めておきたい。
もちろん、やり過ぎるとバランス調整が難しくなるので、按配は考えよう。
謎解きは控えめに
謎解きが解けない場合も、もちろんプレイヤーの心を折りやすい。
戦闘を重視したゲームにしたいならば、謎解きを削るのも一つの手。何でもかんでも盛り込んでしまうのは考えもの。もっとも、過去の記事でも長々と書いたので割愛する。
戦闘、ストーリなどを含めてテンポが悪い
プレイヤーが挫折する一番の理由は『面倒臭い』である――というのは既に主張した通り。『面倒臭い』ゲームとはすなわちテンポが悪いゲームである。
これは『クリアできない』ではなく『クリアしたくならない』に近いだろうか。
そこでその『面倒臭い』を改善する方法を考えていきたい。
……といっても、過去に書いたような内容と被っているので割愛気味でいきます。
戦闘テンポや快適性を重視
戦闘はスピーディに。エンカウント率はほどほどに。ロード時間は短く。レスポンスは良好に。
説明不要。過去に散々書いた気がするので省略。
システムはシンプルに
システムが無駄に複雑になっていないかという点にも注意しておきたい。
何をするにも、やたらと手順が多いゲームシステムは要注意。
重要施設が遠いのもよろしくない。(PS4版ドラクエ11のメダル女学園など)
また、アイテムの数なども過剰に多いと煩雑になりやすい。時には要素を削る覚悟も必要となる。
物語をテンポよく進める
文章が冗長ではないかを考えてみる。ゲームにおいては、小説のように長々と文章を書けばよいというものではない。
また、ゲーム特有の問題として、やたらにウェイト(待ち時間)を挟まないことに注意したい。
時々『!』『?』『汗』などのアイコンを表示する度に、長めのウェイトを挟む作品があるけど、これは結構気になる。
ウェイトを1秒単位で大雑把に指定する人がたまにいるけど、オススメできない。テストプレイすればすぐに分かるけれど、1秒というのは意外と長いので。
長くて終りが見えない
長くて終わりが見えず、クリアまであと何十時間かかるか分からない。もういいかな――とプレイヤーが諦めてしまうパターン。
時間を忘れるほど熱中させられれば何も問題はないけれど、残念ながら現実はそう簡単にはいかず。序盤、中盤、終盤と隙がなく面白いRPGなんてそうそうあるものではない。
いかにして、プレイヤーを最後までつなぎとめられるかを考えてみよう。
クリア時間はほどほどに
これはもう、プレイ時間稼ぎをしないという一点に尽きる。物語は終わるべき時に終わらせよう。
「俺は千時間も制作にかけたんだから、プレイヤーだって十時間ぐらいは付き合うべきだ。それが多少面倒であっても」
……みたいな思考になっていたら要注意!
そういう作者自身が通しのテストプレイをしていない――なんていうのは論外。きちんと最初から最後まで、なるべくユーザと同じ条件でプレイしよう。二週、三週と自分でクリアすれば、ユーザに面倒を強いることの愚を嫌でも悟るはず。
また、クリア後の隠し要素なども無理して作る必要はない。統計上、クリア後にまで手をつけるユーザは意外と少ない。(PSのトロフィー機能を参照)
もっとも、個人制作でそこまで長くなることは珍しいだろうけど。
ストーリー進行に目安を作る
ダラダラと区切りなく話が続くのはしんどいというもの。
そこでストーリーが着実に終わりに向かっているという進展感を与える。
おつかいイベントやタライ回しばかりに頼らず、序盤や中盤にもある程度の山場を用意しておく。
あるいは『四天王との対決』とか、『7つのボールを集める』とか。数字で目安を作ると分かりやすいかもしれない。まあ、話の先が読みやすいという問題点もあるわけですが……。
後ろ髪を引かれて辛い
- 売り払った初期装備の木刀が、実は最強武器の素材だった。
- 既に倒したボスから盗めるアイテムが、限定品だった。
- 選択肢を間違えたら、仲間にならなくなった。
どうです? 最初からやり直したくなりませんか?
やり直すのは面倒なので、とりあえずそのままやるけれど、モヤモヤした気持ちになって、モチベが落ちませんか?
後ろ髪を引かれた状態でプレイを続けるのは辛いもの。
結局、続ける気にもなれず、かといってやり直す気にもなれず、気がついたら中途放置していたなんてことも。
対策はもちろん取り逃し要素を減らすこと。ドラクエシリーズなんかは毎回やっていることではある。
もっとも、自由度が高くて分岐の多いゲームは仕方がない。個人的にはそういうゲームも好きなので、完全否定するつもりもない。ただそういう場合もある程度、一周にかかるプレイ時間を下げたほうが妥当かと思う。
それ以外だと、ストーリー的なことも問題になるかもしれない。
例えばヒロインが死亡するなどして、プレイヤーが何か選択を間違ったのではないか――と思わせるのも危うい。それがゲーム的には正解ルートの一本道であっても、辛いものは辛い。
プレイヤーが気持ちよく先に進みたくなるようなシナリオを作るのも、一つの技術だと思う。
とはいえ、さすがにそこまで気にするとシナリオが制約されてしまう。あくまで自分の趣味と要相談ではあるけれど。
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