【RPG制作講座】CTBの戦闘バランス

2022年06月09日

 CTB(カウントタイムバトル)はRPGにおいて、ターン制に次いで採用されることが多い戦闘システム(たぶん……)である。


 特にFF10で採用された敵味方の行動順序を表示するUIは秀逸であり、

  • 身軽なキャラクターは何度も動けるという直感的な分かりやすさ。
  • それによるキャラクターの差別化。
  • 行動順序を可視化することによる高い戦術性。

 ……といった長所を持つCTBは後続の作品へも多大な影響を与えた。
 実際、ほぼ同じような仕組みを採用している作品は、現在もプロ・アマ問わず多数見かける。比較的後発の戦闘システムながら、これほど定着したものは珍しいだろう。

 しかしながら、CTBはターン制ほど経験者が多くなく、あまり研究されているとは言い難い。というわけで、CTBで中〜長編を3回ほど完成させたことがある経験者として、バランス調整法をまとめてみた。

 ※当ブログでも、RPGツクールMV〜MZで使用できるCTBプラグインを公開しています。
 ※なお、CTBそのものについての説明は『戦闘システム@ 行動順序システム』を参照してください。


目次


素早さの重要性

CTBは素早さ至上主義か?

素早さに大きな差をつけない

素早さをインフレさせない

敵が素早すぎる場合の弊害

味方が素早すぎる場合の弊害

個別行動の問題点


素早さの重要性


 ご存知の通りCTBにおいて『素早さ』は極めて重要なパラメータである。

 古典的なターン制において、素早さの価値はそれほど高くない。
 それもそのはず、キャラごとに2倍、3倍の差があろうが、行動順序が変わるだけ。大きな違いにはならないためだ。
 ※素早さが命中回避などに関わってくるパターンは除きます。
 素早さが低いキャラは、確実に敵より後に行動するため、それを利用するなんて戦術も有力になるほどである。
 ※いわゆる『置きベホマラー』『置き賢者の石』など。

 しかしながら、CTBにおいてはそうではない。
 素早さに比例して行動回数が増えるため、攻撃や回復・補助などあらゆる行動に対して恩恵が得られるようになっている。
 そのため、ターン制と同じ感覚で素早さを設定すると、バランスが崩壊してしまう。そうならないように、CTBでは入念に敵味方の素早さを調整したい。

 以降の内容も大半が素早さに関するものとなる。

CTBは素早さ至上主義か?


 もっとも、CTBは『素早さ史上主義』である――という極端な見方にも反論しておきたい。
 無論、素早さが重要なパラメータなのは間違いない。
 しかし、あらゆるパラメータを上回るほどに重要かというと、実はそうではない。

 あくまでHP、攻撃力、防御力、魔力などと、素早さが同等の価値になるだけだと考えて欲しい。

 例えば、単純に「攻撃力 - 防御力」の引き算でダメージが決定されるゲームを考えてみよう。
 ※いわゆるアルテリオス計算式。言うまでもなく『攻撃側の攻撃力』と『防御側の防御力』という意味です。

  • 攻撃力50 - 防御力40 = ダメージ10

 という決め手不足の状況を、能力の引き上げによって改善したい。

  • 攻撃力100 - 防御力40 = ダメージ60

 この通り、攻撃力を倍にすればダメージは6倍になる。
 しかし、素早さで同等の火力を出そうとすると、素早さを6倍にする必要がある。

 この場合、明らかに攻撃力を上げたほうが効率がよい。
 CTBだからといって、素早さが最重要とは限らないのだ。

 そもそも、キャラクター毎のパラメータに2〜3倍もの差をつけたら、大抵はバランスが崩れる。HPだろうが攻撃力だろうが魔力だろうが、それは同じだ。
 崩れないとしたら「戦士の魔力」「魔法使いの攻撃力」のように事実上の『死にステータス』と化している場合だろう。

 事実、ターン制の素早さは相手をある程度上回っていれば十分であり、過度に上昇させても恩恵はない。状況によっては半ば『死にステータス』と化すため、そのような問題が起きないというだけに過ぎない。

素早さに大きな差をつけない


 CTBにおける素早さは常に機能するパラメータであるため、『死にステータス』にはまずならない。HPのように全てのキャラに対して、しっかり調整する必要がある。

 というわけで、答えは単純。
 CTBにおいてバランス調整する際は、素早さに大きな差をつけなければよい。

 ※参考:拙作ミスティックスターの最も遅いキャラのクリアレベルの素早さは70強、最も速いキャラは110強。だいたい1.5倍ぐらいの差が無難かなって気がします。これに加えて装備で補強できる仕様です。

素早さをインフレさせない


 また、レベルアップなどにおける上昇量も重要。
 プレイスタイル次第で素早さに大きな差がつくようなバランスだと、調整が難しくなる。

 実際、CTBの先駆者のFF10はプレイスタイル次第で素早さに大きな差がつくシステムになっている。そのせいで後半は極めてバランス崩壊を起こしやすかった。

 なので、レベルアップなどによる上昇量も控えめにしたほうが無難だろう。
 例えば、HPや攻撃力のようなステータスならある程度インフレさせたほうがよいかもしれない。序盤は10ダメージしか与えられなかったキャラが、後半100ダメージを与えられるようになるのは、プレイヤーも気持ちが良い。

 けれど、素早さは他の敵味方との相対的な差によって、行動回数に差がつくだけである。数値そのものをインフレさせても、プレイヤーの快感にはならない。

 ※参考:ミスティックスターの一番素早いキャラの素早さ初期値は50。クリアレベルでの素早さは110〜120程度になっている。つまり変化は二倍強に過ぎない。HPや攻撃力が10倍近くにインフレするのと比較して控えめ。

 極端な話。素早さはレベルで成長しないステータスでも問題ない。つまりキャラの個性として設定してしまうというわけだ。
 もちろん、キャラクターだけでなく装備や職業の特性としてもOK。
 実際、FF5やロマサガ2〜3のように素早さがレベルで成長しない名作はたくさんある。

 ちなみに、これはCTBに限ったことではなく、通常のターン制でも同じである。

敵が素早すぎる場合の弊害


 CTBの性質上、敵が素早すぎる場合はターン制以上に一方的な攻撃を受けることになる。
 特に戦闘開始時の行動順序には注意を払いたい。

 CTBでは戦闘開始直後に逃げるなどのコマンドを選べない作品も多いが、その場合は為す術がなくなってしまう。
 対策として、戦闘開始時に全体コマンド(パーティコマンド)を表示して逃げるを選択できるようにするのも一つの手。コマンド入力手順が一つ増えるのは難点だが、理不尽感は軽減できる。

味方が素早すぎる場合の弊害


 より見落としがちなのは、味方が素早すぎる場合の弊害だ。

 例えば、4人パーティの作品で全員が敵より素早く先制できるとする。さらに内2人の素早さが非常に高く、敵より先に2回行動できるとしよう。

 通常のターン制なら計4回しか攻撃できない場面で、先に計6回行動できる状況となるわけだ。
 一見すると、一方的に何度も攻撃できて爽快感があるのだが、そこに落とし穴がある。
 
 6回行動できるということは、一方的に敵を封殺できる可能性が高いということでもある。となると、敵の行動を見る前に戦闘が終わる可能性も高い。

 通常のRPGにおいては、敵のほうが遥かに種類が多いため、その行動も多彩になる。ダンジョン毎に異なるモンスター達は作品を大きく彩ってくれるはず。
 対してプレイヤーが扱う味方は精々4〜8人程度、自然とその行動も決まったものになりがち。
 敵を完封できるということは、敵の行動を見る機会が奪われるということでもある。これは戦闘が単調になる危険性を秘めている。工夫すれば敵を完封できる――というのは確かに気持ちいいのだが、このデメリットもよく考えよう。

 では、6回行動しても終わらないように敵をしぶとくしてはどうか――と考えた人もいるかもしれない。
 残念ながら、こちらはこちらで問題がある。

 ターン制なら4回行動で一巡するところが、この例では6回行動が一巡になっているわけだ。単純計算で味方の行動時間とコマンド入力回数は1.5倍である。その分、ゲームテンポが遅くなるのは避けられない。

 そんなわけで、戦闘開始直後から何度も行動できるような調整は避けたほうが無難かと思う。たま〜にあえて素早さが極端に低い敵を作ってみるぐらいでちょうど良いのではないだろうか。

 なお、戦闘メンバーが1〜3人の作品では、これらのデメリットも軽減される。この点では、人数の少ない作品のほうが自由にやれるかもしれない。

個別行動の問題点


 最後に、素早さ以外の問題点も一つだけ指摘したい。
 CTBではターン制と異なり、一人ずつコマンド入力を行う点である。これによりターン制よりも機敏な行動判断が可能となる。

ターン制の場合

  • 敵1が味方1を攻撃
  • 味方1の攻撃
  • 敵2が味方1を攻撃→死亡

 となる場面でも……

CTBの場合

  • 敵1が味方1を攻撃
  • 味方1が自分を回復
  • 敵2が味方1を攻撃→耐える

 ……と、全く異なる結果となる。

 ターン制とCTBを比較すると、同じような状況でもプレイヤーにとって有利な展開になりやすい。
 ※もっとも、ターン制の代表格であるドラクエシリーズの『作戦』でも、機敏な回復は可能だったりする。

 これは長所でもあるのだが、一方でピンチに陥りにくいことはゲームバランス上の注意点となる。
 CTBでは「攻撃を受けたら回復」でしのげる範囲が、ターン制よりも幅広い。……ということは、「攻撃→回復」の単調パターンの繰り返しに陥りやすいということでもある。

 CTBにおいて、ターン制と同じような難易度&緊張感を維持したい場合は、敵の攻撃を激しくしたり、味方の回復を制限したりする必要があるだろう。
 基本的には回復魔法の制限がポイントになるかな〜というのが僕の意見。例によって、以下の記事を貼っておきます。

回復魔法の問題点

 https://newrpg.seesaa.net/article/462407181.html

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【RPG制作講座】戦闘バランスC-2 ボス戦のサイクル

2022年05月31日

 以前、以下の記事でボス戦のバランス調整について考察した。

 戦闘バランスC ボス敵の設定
 https://newrpg.seesaa.net/article/206919474.html
 なお、この記事を書いた2022/05/31の時点で10年以上が経過している模様。月日の流れは早い……。

 ボス戦を面白くするためには、戦闘を単調化させないことが何より重要。基本はザコ戦と同じで、無闇に戦闘を長引かせないこと。特に何十ターンも同じ攻撃と回復を延々と繰り返し続けるような、長いだけの戦闘はつまらないの一言に尽きる。

 ……なんてことを書いていたけど、もう少し理論的に掘り下げてみたい。

目次


ボス戦のサイクル

安定サイクルを崩そう

強力すぎる回復の弊害

プレイヤーの戦術性

まとめ


ボス戦のサイクル


 ボス戦のバランス調整において、まず考えたいのは「ボスの攻撃をプレイヤーが安定して受けられるか否か?」である。
 これは逆の事象――「プレイヤーの攻撃をボスがどの程度耐えられるか?」よりも優先して考えておきたい。

 なぜかというのは、オーソドックスなRPGのボス戦の特徴を考えてみれば分かりやすいだろう。


  • ボスは一体、味方は複数人。
  • ボスのHPは味方の何倍も高い。十倍以上も当たり前。
  • 味方は強力な回復能力を持ち、何度も使える。
  • ボスは回復能力を持たないか、あっても限定的。

 これらの特徴により、プレイヤーは「ボスの攻撃を受ける」→「回復する」→「合間に攻撃する」というサイクルを繰り返すことになる。そして、その繰り返しによってダメージを蓄積し、ボスを倒すという流れになるはずだ。

 これはドラクエ3の時代には確立されていた様式である。
 ストーリーと絡めて考察すれば「強大な人外の敵を人間達が力を合わせて倒す」という構図をゲームデザインに落とし込んだものといえそうだ。

 例えば、剣で何十回と斬られても倒れない巨竜と、人間の戦士が同程度にタフならば違和感があるだろう。
 そこでHPに大差をつけた上で、味方には回復能力を付与することでバランスを取るという仕組みである。

 ※当前、例外も存在するが、有名なのはポケモンだろう。モンスター同士の戦いであるため、味方と敵の条件はほぼ同じ。ボス戦であっても短期決戦が基本となるため、必ずしも耐久側が優先事項にはならない。

 これにより、サイクルを維持できるかどうかが、勝敗を分ける基準となることが分かる。難易度調整をする上で大きな目安となるだろう。

 そして、重要なのは「サイクルを安定して維持できる」ならば事実上、勝利は確定するということだ。
 つまり、『安定サイクル』が達成できた時点で、ボス戦は事実上の作業と化してしまう。これは見た目上、どんなに派手な演出や数値が飛び交っていても変わらない。

 また、こうなると「プレイヤーの攻撃をボスがどの程度耐えられるか?」はほとんど問題にならない。「時間がかかるかかからないか」の違いでしかないからだ。
 ※あくまで難易度面の問題であって、ゲームテンポ面では重大です。

安定サイクルを崩そう


 では、具体的なバランス調整方法を考えてみよう。
 例えば、以下のケースはほぼ完全な安定サイクルとなって、勝ちは確定したも同然である。

  • ターン制
  • ボスは単体で出現、かつ一回行動&単体攻撃のみ。
  • 最もHPが低い味方キャラのHPが100
  • 受ける最大ダメージが99
  • 味方は回復魔法で全回復できる。
  • 回復魔法は30回使える。
  • 回復役は必ず先制できる。

 唯一の不安定要素は回復魔法の回数制限(30回)だけ。普通のRPGならば、十分な安定状態と言ってもいいだろう。
 理論上、回復魔法を30回使い切るように敵の耐久度を調整すれば、ギリギリの戦いになる。……が、まず面白くならないのでやめよう。30回は明らかに長すぎる。

 当然ながら、これでは戦闘に緊張感がなく同じことを延々と繰り返すだけである。面白くすることは難しいだろう。

 そこで、少し不安定となるように崩してみよう。
 例えば、以下のような手段が考えられる。

  • 敵味方の行動順にランダム性を出し、死人が出る可能性を生む。
  • ボスを二回行動にしたり、お供を付けたり。
    HPの低いキャラに攻撃が集中すると倒れるようにする。
  • ターンによってボスの攻撃の強さに格差をつける。
    時折、強力な全体攻撃を使ってくるなど。
  • ボスのHPが減ると行動が強化される。
  • 味方の回復魔法の使用回数をもっと限定する。
  • ボスに異常や補助を使わせて、こちらの計算を崩す。
  • ボス戦前の戦闘やダンジョンで消耗させる。

 わずかな不安定感を演出するだけでも、意外と緊張感が出る。

 例えば、ドラクエシリーズ(正確には4以降)で隊列の4番目のキャラが狙われる確率は約10%である。
 最もHPの低い4番目のキャラにボス(二回行動)の攻撃が連続ヒットした場合、死亡するバランスにしたとしよう。
 一見、厳しそうに見えるが、その確率は1ターン辺りわずか1%。
 ボス戦が5〜10ターン程度で終わると想定した場合、それが原因でプレイヤーが全滅まで追い込まれる確率はほとんどなかったりする。

 このようにして、理不尽でない範囲で崩しを入れてみよう。

 この崩しは厳密である必要はない。
 事実上の安定状態でも、ほどよいランダム性があれば意外と緊張感が出たりする。プレイヤーはデータを完全に把握していないため、安定サイクルに入ったかどうかは容易には分からないためだ。
 逆に言えば、「パターン入った!」と簡単に分かるようでは困るということでもある。

強力すぎる回復の弊害


 何度も似たようなことを書いているけれど、全体回復、蘇生、MP回復が容易な調整だった場合、ちょっとやそっとでは安定サイクルを崩せないため調整が難しくなる。

 それは今回の安定サイクル理論を元に考えれば、より明白になる。
 例えば、蘇生アイテムが誰でも簡単に使えるようなバランスならば、単体即死攻撃ですらサイクルを崩壊させられない。
 従って、ボス戦が容易に作業となり得る危険性を秘めている。

 それ以上の攻撃手段をボスに設定するとなると、かなり際どいところを突くしかなくなってくる。一歩間違えれば、ライトユーザお断りの理不尽ゲーだ。

 また、「強力な全体攻撃」→「強力な全体回復」の繰り返しや「単体即死攻撃」→「蘇生」の繰り返しは非常に目立つ。回復側に選択の余地が少ないため、単調になりやすい。必然的にパターンに入ったことが、プレイヤーに見抜かれやすいのも注意すべき点だ。

 その他についても、以下の記事で散々書いたので割愛する。

 回復魔法の問題点
 https://newrpg.seesaa.net/article/462407181.html

プレイヤーの戦術性


 さて、ある程度まで安定サイクルを崩せたとする。
 無策では確実な勝利を望めないとなると、プレイヤーは勝率を高める対策を練る必要がある。そして、そこに戦術性が生まれる。

  • 防具を見直す。
  • 異常で敵の攻撃を妨害する。
  • 補助で味方の防御を強化する。
  • お供がいる場合はお供を倒し、敵の戦力を削る。
  • 節約しながら、回復魔法を使う。
  • ピンチに防御する。
  • やられる前にやる。

 無論、プレイヤーが最適解を取れば、理論上100%勝ててしまう調整でも問題ない。大事なのは、何の工夫もなく安定状態にならないことだ。

 この中で最も基本的な対策は「やられる前にやる」である。
 これは最初に掲示した逆の事象――「プレイヤーの攻撃をボスがどの程度耐えられるか?」に対応する。

 その内実も様々で、ダメージ効率の高い技を模索したり、武器を整えたりといった選択肢がある。
 そして、これによって、プレイヤーが勝利するための戦術の軸が倍になる。戦術性を高める上ではかなり有用だ。

 そのため、ボス戦は「やられる前にやる」がある程度成り立つバランスを心がけておくとよいだろう。基本は過度にボスをしぶとくしないこと。これはゲームテンポをよくする効果も得られる。

 ボスがしぶとすぎると「やられる前にやる」が成り立たなくなる。結果、敵の攻撃をしのぎ切る以外の選択肢がなくなってしまう。
 そうなると、戦闘が単調になってしまう上に、戦闘テンポも悪化するので注意したい。

まとめ


 今回の記事で、面白いボス戦とつまらないボス戦の一つの境界線を示せたと思う。

 現行のオーソドックスなRPGを何も考えず踏襲すると、この安定サイクルに陥りやすい。面白い戦闘を目指すならば、何らかの崩しを入れてみよう。
 もちろんポケモンのようにゲームデザインの段階で崩すのも面白いだろう。

 なお、ストーリー重視などで難易度が低い作品を目指す場合や、重要度の低いボス戦を難しくしたくない場合は、無理に安定サイクルを崩す必要はない。そういった場合も長期戦でテンポが悪くならないようにだけ注意しておきたい。

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posted by 砂川赳 at 18:55 | RPG制作講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【RPG制作講座】物語の転換点

2022年01月21日

 起承転結の『転』――物語の転換点について考察してみる。


 ここで言う転とは、主に物語の目的が転換するポイントを指す。例えば「魔王を倒したら、それを影で操る大魔王が現れた」などが典型だ。
 物語が根底から覆るような衝撃的な変化をした場合は『どんでん返し』なんて言葉でも呼ばれる。ストーリー制作者なら、一度は憧れた方も多いのではないだろうか。

 目的自体が変化しなくとも、動機や手段に大きな変化をもたらすイベントも転換点となる。例えば、主人公の出生の秘密が明らかになることによって、大きな葛藤が発生するといった展開である。

 転は物語半ばの山場である。長い物語をプレイヤーに飽きさせないために、重要な役割を果たす。
 物語の評価において「起承転結が弱い」なんて言われる作品は大抵の場合、転が弱いことを意味する。

 転は1つである必要はない。『起承転承転結』というように複数回の転を作ることも有効である。
 ……そもそも、起承転結は元々は漢詩の構成法らしいので、長編RPGにそのまま適用するのは無理があったりする。

 特に長編になればなるほど、複数回の転が欲しくなってくる。
 例えば、長い長い中盤に全く転がないドラクエ7は中だるみするゲームとして有名だ。そうならないためにも、転を中心として全体の構成を考えてみたい。

目次


転を作ろう

転と起

転の例

転を強調しよう

主人公側に関わるもの

世界・舞台に関わるもの

転の注意点

まとめ


転を作ろう


 転は起承転結の中でも比較的難易度が高い。
 というのも『起承結』の三つは物語の最低限の構成要素であって、それなしではそもそも物語の成立は困難である。
 どんな初心者でも物語の完成までたどり着けたならば、『起承結』は盛り込まれているのが普通だろう。

 対して、転はなくとも一応の物語が成立してしまう。ゆえに、初心者と上級者の実力差が強く出る部分だと言える。
 しかしだからこそ、不慣れであっても転を意識して作ることに挑戦して欲しい。難しいからこそ、経験を積むことが重要となる。

 実際に転となる部分を考えてみると、

「こいつが黒幕なのはバレバレじゃないだろうか?」
「この展開はありがちじゃないだろうか?」

 などと不安になってくるかもしれない。
 個人的にはそれでもないよりはマシだと思う。
 たとえ、ありがちだったとしても、平坦なまま物語を終えるよりは強い印象を与えられるからだ。

 必ずしも、ミステリー作家のような秀逸などんでん返しである必要はないし、プレイヤーが見たこともないような奇想天外なものである必要もない。
 まずはベタな展開でもよいから流れを変えてみよう。試してみれば、それだけで物語が引き締まってくるのが実感できると思う。

転と起


 実は起承転結の『起』も『転』と似たような特徴を持っている。
 『起』とは大抵の場合、『平常からの転換』なのだから当然といえば当然。冒頭に『転』を持ってくれば『起』になるというわけだ。
 よって『転』について考えることは『起』の参考にもなるかもしれない。

転の例


 というわけで、転の例を挙げてみたい。
 これを見れば僕のような発想力の乏しい貧弱一般人でも、一応の『転』を作れるようになる……はず。

 前述の通り、転とは主に物語の目的の転換である。それを具体化するところから始めてみたい。

 よくある目的は『宿敵』に関わるものだ。
 ここでいう『宿敵』とは単なるライバルキャラではなく、物語の目的に直結する敵――ラスボスまたはそれに準ずる敵のことである。
 例えば、DQ3のバラモスやDQ6のムドーのような『偽のラスボス』もここには含まれる。

目的の達成

 目的の達成は物語の転換点になる。ゲーム中盤に大きな目的を達成して、次なる展開に進むというRPGはよく見かけると思う。

 最も王道なのは『宿敵との決着』である。
 大抵の場合は下の『新たな目的の登場』へと続く。……というか、そうでないと物語が終わってしまう。

新たな目的の登場

 目的を達成した後も物語を続けたい場合は、新たな目的が必要となる。
 次なる目標をプレイヤーに掲示しよう。

 代表的なのはやはり『新たな宿敵の登場』だろう。
 「魔王を倒したら、それを影で操る大魔王が現れた」というような流れは定番。
 他にも、重要人物が裏切って新たな敵となるパターンは、最もどんでん返しらしいどんでん返しである。

 ラスボスの確定は転によって行われることが多い。
 印象的な『ラスボス確定演出』ができれば、それだけで全体のストーリーも印象的になる。ぜひとも狙ってみるとよいだろう。

目的の明確化

 物語の目的が明確化される。
 こちらは途中まで大きな目標を示さなかった場合、もしくは明確に示さなかった場合を前提としている。

 目的の明確化は、起承転結の『起』でやることも多いのだが、実際には例外もある。
 例えば、DQ5の序盤に当たる少年期では、主人公は父に従う形で旅をする。その間、主人公自身は大きな目的を持つことはない。
 その後、父の遺言によって「母を探す」という目的が明確化される。

 その他には宿敵が明確になる場合などがある。
 今まで存在をつかめなかった悪の組織の首領が、ついに正体を現すようなパターンだ。

目的の変化

 目的を達成しない段階で、目的が変化してしまうパターン。

 例えば『宿敵』が部下の裏切りによって、死亡するパターンが挙げられる。多くの場合は、そのまま部下がラスボスとして君臨する。
 いわゆる下剋上型のラスボスである。

 あるいは、もっと大がかりなどんでん返しもあり得る。
 今まで敵だと思っていた人物が正義の味方で、本来の敵は別にいたことが明らかになるなど。

目的の難化

 大まかな目的は変わらないまでも、それが難化するというパターン。

 代表的なところでは敵の復活イベントだろうか。
 「主人公達の奔走は報われず、邪神の復活を許してしまう」とかそんな感じ。
 これにより「邪神の復活を阻止」するという目的が「邪神の封印・討伐」へと格上げされる。
 まあ、邪神の復活が阻止されたら、物語にならないし仕方ないね。

 他にも、宿敵のパワーアップイベントなどもそうだろう。
 なるべく劇的なパワーアップイベントを作ろう。
 「封印されし力を得た」とかそんな感じである。
 「ちょっと修行したら強くなった」だけではさすがに転とは言い難い。

 ついでに破壊イベントや強制敗北イベントを作ってみてもよい。
 破壊イベントとは、力を手に入れた敵が町を見せしめに破壊したりするアレである。
 他にも最強と思っていた師匠キャラが、パワーアップした敵に殺されてしまうなんてのも定番だろう。

 物理的に強くなるだけでもよいが、他にも色々と考えられる。

  • 主人公は父の仇を討つために、大国の軍人である男を追う。
  • 旅の末、大国にたどり着いたはいいが、男は大国の王になっていた。
  • 男を倒すには、大国そのものと戦う覚悟が必要となる。
  • 主人公は大国と戦う反乱軍に身を投じることに。

 目的の難化に伴い、「個人的な復讐劇」が「国家的な騒乱劇」に格上げされたことに注目して欲しい。
 このように『目的の難化』には物語の流れを変える効果もある。

目的に対する手段の変化

 大きな目的は変わらないが、手段や中期的な目的が変化する場合。
 これも立派な転換点である。

 どのような時に手段が変化するかは、下記の『目的の失敗』や『目的に関する新事実』を見ていただければ。

目的の失敗

 目的に挑んで失敗する――これもまた転換点となる。

 例えば、物語中盤で宿敵に挑むが、返り討ちに合うような展開だ。
 その後、宿敵を倒すための手段を探すといった展開に。

 あるいはその際に宿敵にヒロインをさらわれるなど、失敗の代償を払わされる展開にしてもよい。当面の目的はヒロインの救出になるわけだ。

 SFなら「地球に衝突する隕石を阻止するためにロケット兵器を打ち上げるが、破壊に失敗した」など、色々と考えられる。

目的に関する新事実

  • 宿敵の正体は主人公の父だった!
  • 敵を倒すためには、大きな犠牲を払う必要がある。

 ……というような展開。

 上の例はFF10だが、「宿敵の正体」「倒すために必要な代償」などが掲示された結果、主人公にとって目的を達成する意味合いが大きく変化してくる。その結果、手段の変更も決意することになる。
 ただし、敵を倒すという目的自体は当初から変化していない。

 他にも「悪だと思っていた敵にも、同情できる事情があった」なんていう王道パターンもこれである。

転を強調しよう


 さらに具体的に転を強調する方法を考えてみよう。

 『主人公側に関わるもの』『世界・舞台に関わるもの』の二種類に分けてみる。これらが『目的の転換』に結びつくことで、印象的な転が生まれるというわけだ。

主人公側に関わるもの

 『転』においては主人公側に関わる出来事が多用される傾向がある。
 主人公やヒロイン、仲間に関わるイベントを起こすことで、印象的な転を作ろう。

主人公の変更

 主人公の変更。これはゲーム性への影響も大きな転換である。

 王道なのは主人公が死亡するなどして、その子世代に主人公が変更されることだろう。この場合は、時間経過と組み合わされることが多い。

主観視点の交代

 単純なところでは、章が変わって視点となるキャラが交代するなど。ただし、それだけでは転としては弱いかも。

 他にも主人公が危機的な状況に陥って、ヒロインなどの他のキャラが第二の主人公として動き出すなど。

主人公の大きな決断

 物語の流れを大きく変えるような主人公の決断。

  • 所属組織からの脱退・離反
  • 悪事

 などが代表例だろうか。

 ストーリー上で強制しても良いし、もちろんプレイヤーに選択させてもよい。
 FF4の冒頭や、タクティクスオウガの一章終盤の選択肢などが有名だろう。

仲間の離脱

 一時的にちょっと離脱するだけなら大したことはないが、死亡などの永久離脱は大きな衝撃になる。
 時にはヒロインや主人公まで対象となったりする。

 FF6のようにメンバー全員が離散するなんて展開も。

重要人物の裏切り

 定番のどんでん返し。
 そのまま仲間だった人物が宿敵になったり、もう一度復縁したりと展開は様々。

重要人物の死亡

 例えば、パワーアップしたラスボスに師匠キャラが殺害されるような展開があれば、ラスボスの印象が強まるだろう。

 宿敵と思っていた相手が黒幕に殺されるとか、主人公に指示を出していた組織の長が殺される――といった展開なら、物語の流れも変わってくる。

 当然、どうでもいいキャラでは転換点にはならない。

主人公やヒロインの秘密が明かされる

 実は王族だったとか、人間じゃなかったとかいうのが最もベタだが、やりようはいくらでもある。
 それによって、新たな展開につながったりする。

協力者の登場

 ネガティブな展開ばかりを書いている気がするけれど、ポジティブな展開も大事。
 協力者の登場によって、絶望的な状況に光明が見えてくる展開など。

 敵側の人物が改心して仲間になってくれるなども効果的だ。もしくは最初からスパイ的な活動をしていただけで、味方だったなどのパターンもある。

恋愛成就

 例えば、主人公がヒロインに告白して成功する――なんて展開も場合によっては立派なターニングポイントになる。
 悪の組織に追われるヒロインを守る――といった動機づけによって、ストーリー展開に大きな影響を与えることも。

 中盤で結婚するDQ5なんかが有名。
 ただし、現代的な恋愛劇として見た場合は、圧倒的に描写が足りないのは玉に瑕。

 逆に振られてしまう場合も立派に印象づけられるけれど、いささかマニアックなのは否めないし、某ラグーンぐらいしか有名作を知らない。

世界・舞台に関わるもの

 物語の転換点においては、世界・舞台の変化が行われることも多い。

世界・舞台の移動

 魔王が支配する暗黒の世界、雲の上の浮遊大陸、未知の生物が跋扈する地底……。こういった舞台への移動は、大作RPGの醍醐味である。

 SFならば宇宙船で新たな惑星に移動したり、タイムマシンで別の時代に移動したりすることもあるだろう。

 必ずしも、大規模な変化である必要はない。
 FF7の序盤は、都市ミッドガルを舞台に物語が展開されるが、やがて世界を舞台にした物語へと広がっていく。これもまた舞台の移動である。

時間の経過

 時間経過によって、物語を転換させる手法。

 有名なのはDQ5だろう。
 父に連れられていた少年時代から、自ら立って歩く青年時代へと主人公は成長を遂げる。
 さらに再度の時間経過によって、誕生した子供達が成長して戦いに参加するようになる。

 当然ながら、時間が経過すると世界中の住民も歳を取る。そういった住民の変化を実装するのは、なかなかの難作業である。
 そう考えると、序盤の多くの町が登場していない段階で、しかけるのが無難なところか。
 実際、ごく序盤のイベントのみを少年期で行う作品も時々見かける。もっとも、これは『転』というより『起』寄りのような気がしないでもない。

 あるいは、一年程度の時間経過を導入する方法もある。
 こちらならば住民に大きな変化はないはずなので、セリフなどを変更しなくとも違和感はないはず。
 ただし、意味もなく時間経過を導入しても仕方ないので、何らかの変化は必要だが。

舞台の破壊

 町や国が破壊されたり、島や大陸が沈んだりする。
 あるいはFF6のように世界まるごと大打撃を受けてもよい。

 これによって敵の強大さや凶悪さを印象づけたり、主人公側に動機づけを行ったりする。

 『起』でも『転』でも使えるイベント界の優等生。大規模にやると演出が大変になるのが玉に瑕。
 とりあえず主人公の故郷を焼いたりするのは基本。

世界規模での異変

 世界が暗闇に覆われる。雨が永遠に止まらない。世界中の陸地が水没する。モンスターの大量発生。などなど……。
 敵によって人為的に起こされたか、自然現象的なものなのかによって、また展開が変わってくる。

 隕石を阻止するFF7のように、それら天変地異の阻止が最終目的となる場合もある。

 「ラスボスを倒さないと世界がヤバい!」なんて文章を中心に説明する作品は多いけれど、それだけではイマイチ実感が湧かないもの。
 上の『舞台の破壊』もそうだけど、こうやって具体的な演出を入れると効果てきめんだ。

転の注意点


 ここまで熱烈に『転』を推してきたけど、転は万能ではない。強引に転をしかけた場合は、物語に対してマイナスに働く場合もある。

 それはテーマがブレることである。

 例えば「主人公とライバルとの対決」というテーマが物語の全体の多くを占める作品だったとしよう。
 そこで終盤になって唐突に「黒幕の手によって、ライバルが殺害される」という転を導入するとどうなるだろうか?
 これにより「主人公とライバルとの対決」というテーマが終わってしまうため、プレイヤーが興冷めしてしまう可能性は高いだろう。

 こういった場合も、なるべく自然なテーマの変化を目指そう。
 例えば……

 幾度の戦いの末、主人公とライバルはついに和解する。手段は違えど、二人とも世界の平和を目指す志は同じだったのだ。
 だが、ライバルを影で利用していた黒幕は彼を殺害する。
 世界征服を企む黒幕にとって、もはやライバルは邪魔でしかなかったのだ。
 主人公はライバルの目指した世界平和を目指すため、黒幕との最後の戦いに挑む。


 テーマが「ライバルとの対決」から「ライバルの遺志を継ぐ」に転換されたわけだが、これなら比較的違和感は少ないはず。

まとめ


 以上、色々と例を挙げてみた。
 簡単にできるものから演出的に難しいものまであるけれど、色々と考えてみていただければ。

 なお、実際には複数の要素を組み合わせて『転』を演出することが多い。
 例えば、FF6の中盤の転換点では、『目的の変化』『目的の難化』『目的の失敗』『舞台の破壊』『メンバーの離脱』『時間の経過』など数多くの要素が含まれている。
 強い印象を与えたい場合は、上述の要素を柔軟に組み合わせてみて欲しい。もちろん、ここに挙がっていない方法の中にも、有効なものもあるかもしれない。

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posted by 砂川赳 at 11:10 | RPG制作講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする