全滅のような大きなものから、ちょっとしたコマンドミスまでペナルティは広く存在する。
報酬の正反対となる要素であり、ペナルティはゲーム性を実現する上で不可欠な要素である。
「ペナルティがない」ということは「何をやっても同じ」ということであり、そこにゲーム性は存在しなくなってしまう。
また、ペナルティが大きいゲームは難易度が高いとも言われる。
目次
ペナルティの種類
リソースの減少
やり直し
報酬とペナルティ
ペナルティと時間
ゲームテンポとペナルティ
ゲームバランス=ペナルティ=ゲームテンポ
低すぎるペナルティ
心理的なペナルティ
ペナルティとゲームデザイン
ペナルティの種類
オーソドックスなRPGにおけるペナルティの種類をまとめてみる。
リソースの減少
HP、MP、お金などのリソースの減少。
多くの場合、これらは回復&増加する手段が用意されている。
また、アイテムの減少などもここに含めることができる。
大半のRPGではリソースの減少は避けられない。そのため、あくまで減少を抑えるように立ち回ることになる。
やり直し
定められた地点からのやり直しを強制されるペナルティ。
ダンジョンのトラップによって前のフロアに戻されたり、戦闘で全滅して戻されたり。
最も重要なのは、やはり全滅時のやり直しだろう。ほとんどのRPGでは全員のHPが0になることを全滅と定義している。
そして、全滅時は直近のセーブポイント(チェックポイント)からやり直しさせられることが一般的だろう。
セーブポイントから全滅するまでのプレイは多くの場合、無駄になってしまう。残されるのはプレイヤーの経験だけとなる。
かつてはFF3やペルソナ1のラストダンジョンのように2時間以上セーブできない作品もあったが、今となってはまず見られなくなった。昨今のRPGでは、30分を超えるような長時間のやり直しを強いられることは少ない。
またドラクエシリーズでは所持金の半減を全滅時のペナルティとする代わりに、経験値や入手したアイテムをそのまま保持してセーブポイントへ戻れるようになっている。
※ドラクエ3HD2D版(2024年)では、全滅してもその戦闘からお金の減少なしでやり直しできるようになっている。驚くべきことに、低難易度では無敵となって全滅すらしない。
「ゲームをクリアできない」とはこのやり直しを何度も強いられることによって、先に進めなくなった状況を指すことが多い。
一般的なRPGの目的は先に進むことであり、そのために全滅(=やり直し)を避けることそのものがゲーム性の中核となっている。
リソースの管理を行う目的も、そもそもは全滅を避けることである。
報酬とペナルティ
ペナルティと言えば、罰金のような「罰を与えられるもの」を思い浮かべるかもしれないが、それだけではない。
報酬を得られないことも事実上のペナルティである。
例えば「今月、お前の仕事の評価低かったから給料ゼロな」と言われて怒り狂わない人はまずいないだろう。
給料ゼロは給料をもらえないだけであって、罰金を払うわけではない。
これは給料が得られないことを自分の過去や他者の待遇と比較して、相対的にペナルティだと感じるからである。
ソシャゲにありがちなログインボーナスは「ログインするとボーナス」であると同時に「ログインしないとペナルティ」でもあるというわけだ。
内心飽きてしまったゲームでも、ずるずると日課のようにログインを続けてしまい、それを重荷に感じてしまったなんて経験がある人も多いはず。
最近(2024年)発売したRPGを例に挙げてみよう。
メタファー:リファンタジオの戦闘にはノーダメージボーナス(報酬増加)があるが、これは同時に「ダメージを受けると報酬が減るペナルティ」としても機能してしまう。
結果的に、以下のようなゲームデザイン上の影響が出ると考えられる。
- 雑魚戦では防御よりも攻撃を優先したプレイスタイルが推奨される。
- 無理に強敵を狙うよりも確実にノーダメージ撃破できる敵を狩ったほうが効率的になる。
- ノーダメージ撃破が苦手なライトユーザが不利になりやすい。
※なお、ノーダメージボーナスを必ずしも否定しているわけではない。ノーダメージ撃破を目指すこと自体に一定のゲーム性が生まれるというメリットも存在する。
このように報酬(ボーナス)とペナルティは表と裏のような存在である。
報酬があるのにペナルティのないゲームは事実上存在しないと思ってもいい。
一般的に「失敗した者に罰を与えるよりも、成功した者に報酬を与えるほうが好ましい」とされる傾向はある。
実際、その通りだとは思うのだが、見え方が違うだけで本質的には境界が曖昧なことには注意したい。
ちなみに、ユーザがペナルティに気づかないようにすること自体は可能である。
例えば、
「社員全員昇給させるぞ! ただし、お前は無能だから給料据え置きな」
と言われたら、普通はペナルティだと感じるだろう。
ただ、それを通達せず、こっそり当人以外を昇給させれば、これはペナルティとして認識されなかったりする。
複雑なゲームシステムの作品の場合、プレイヤーが慣れるまでは隠れたペナルティに気づかないことは多い。とはいえ、狙ってゲームデザインにこれを組み込む制作者はあまりないと思うけれど……。
ペナルティと時間
ゲームにおけるペナルティはほとんどの場合、時間に換算できる。
というのも、リアル人生とは違って、多くのゲームでは失敗は取り返しがつくように設計されているからだ。
もし、リアルファイトで敗北すると、滅茶苦茶痛かったり、病院送りになって治療費がかかったり、最悪死んだりする。なんなら勝利しても怪我したり、逮捕されたりする。取り返しのつかないことばかりだ。
けれどゲームではそんなことは起き得ない。
戦闘で全滅しても、ただセーブポイントからやり直せばよいだけ。ドラクエならお金を失ったりするが、それも戦闘で稼げばすぐに取り返せる程度だ。
※対戦ゲームなどは除きます。この講座はあくまで一人で楽しむゲームを想定しています。
ゲーム内のキャラクターが死ぬと気分も良くないかもしれないが、自分には何の痛みもない。
結局のところ、全滅によるペナルティとは「やり直しにかかる時間」に過ぎないとも考えられる。
中には、ファイアーエムブレムやFF6のように取り返しのつかない仲間やアイテムの消滅があったりするが、極論を言えばそれすら最初からやり直せば取り返しがついてしまう。
もっとも、あまりにも時間をかけすぎると究極的にはリアル人生に取り返しのつかない影響を及ぼすことも否定できない。特にネトゲやソシャゲは消費する時間も桁が違うし、時にはリアルマネーも関わったりするのでこの限りではない。
ゲームテンポとペナルティ
ともあれ「ペナルティ=時間」と考えれば、ゲームテンポ(演出時間やロード時間など)はペナルティと密接に結びつくことも分かるだろう。
プレイヤーの勝率が同程度と仮定した場合、ボス戦が1分で終わるゲームと10分で終わるゲームではペナルティにも差が生まれる。
後者のほうが格段に敗北時に無駄となる時間も長くなる。従ってペナルティが重くなる。
戦闘の演出時間やロード時間の長いゲームは、当然ペナルティが増える(難易度が高い)ということでもある。
一方で「1分で終わるが勝率1割のボス戦」と「5分で終わるが勝率5割のボス戦」の比較は難しい。突破できる時間の期待値は似たようなものだが、プレイヤーに与える印象は大きく異なる。
前者のほうが勝率が低いので絶望感はあるかもしれない。プレイヤーが無理だと感じれば、投げ出す理由にもなりそうだ。あるいは逆に、緊張感があって勝つまで試行錯誤するのが面白いと感じることもありえる。
どちらが良いとかではなく、この辺は制作者のセンスが問われる部分だろう。
ダンジョン内でどこでもセーブできるゲームは全滅によって失う時間も短くなるので、ペナルティも下がる。
※ただし、どこでもセーブはハマり(詰み)という特大のペナルティを起こす危険性があるので注意。全滅時はセーブポイントへ戻る仕組みなどと併用すればよい。
こういった観点から難易度が高いゲームとしては、例えばファミコンのFF1〜3、PSのペルソナ1やレジェンドオブドラグーン、PS2のアンリミテッドサガ、Wiiのアークライズファンタジアなどが挙げられる。
これらはセーブの機会が極端に限られたり、ボス戦に時間がかかったりするゲームである。
全体的に古い作品を中心に挙げたが、大きすぎるペナルティは敬遠されやすい。開発者もさすがに学習したため、近年の作品ではこういった調整は避けられる傾向にある。
サガシリーズの多くは、どこでもセーブができる上に戦闘も短期決戦寄りとなっており、ペナルティが軽い。敵は強敵揃いではあるが、これによって全体的なバランスを取っていることも分かるだろう。
ゲームバランス=ペナルティ=ゲームテンポ
もっと言ってしまうと、ゲームバランスの大部分はゲームテンポが左右する。
ゲームバランスの調整とはペナルティの調整であり、ペナルティの調整とはゲームテンポの調整なのだから、必然的にそうなってしまう。
何度も全滅してやり直す必要があるゲームは、必然的にクリアまでの時間も長くなる。すなわちテンポが遅くなるということだ
既に述べた通り「ゲームをクリアできない」とは、やり直しを何度も強いられることによって先に進めなくなった場合が大半である。
これが高難易度のアクションなら「自分にはクリアできない」と確信することによって、クリアを諦めることもあるだろう。
しかし、多くのRPGでは時間をかけてキャラクターを育てれば、いずれは敵に勝てるように作られており、大体誰でもエンディングに到達できるようになっている。
※たまに進行の条件(フラグ)が分からずに詰まることもあるが、現代のネット社会ではググればすぐに解決できてしまう。
以上より、ペナルティによってゲームクリアできない状況は現代のRPGにおいて、ほとんど考えられない。
RPGは「クリアできないから諦める」のではなく「面倒臭いからやめる」のである。「これ以上、このゲームに時間をかけて先に進んでも、手間に見合った面白さを得られそうにないし、他にもっと面白いことがあるからやめる」というのが実情だろう。
このことからも、ゲームテンポ(=時間の調整)がいかに重要なのかが分かるはずだ。
よって、ペナルティ(=時間の消費)は行きすぎないように適切なものを設定する必要がある。
低すぎるペナルティ
一方で、もちろんペナルティは低すぎてもいけない。
演出時間とゲーム性の関連については、以下の記事でも指摘しているが理屈としては大体同じである。
行き過ぎた快適性
https://newrpg.seesaa.net/article/500746654.html
上の記事と内容が重なるが、快適性を極限まで向上させることは、ペナルティを極限まで減らすことになる。
戦闘が一瞬で終わる上に全滅しても再戦が容易なゲームは、限りなく全滅がペナルティとして機能しなくなってしまう。ペナルティがないということは、ゲーム性もないということなのだ。
これは話を極端にしてみれば分かりやすいだろう。
- 戦闘を通常の1000倍速で実行できる超快適設計。
- 戦闘も自動で繰り返せるので操作も必要なし。
- 全滅してもその場ですぐに復活。
1分間放置して経験値稼ぎするだけでアッという間に適正レベルを超えてしまうことは間違いない。ボス戦も自動で戦うだけで何の問題もなく終わってしまうはず。
快適性を高めただけのはずが、ゲーム性自体が完全に崩壊していることが分かるだろう。
演出の高速化はペナルティの低下であり、まぎれもなくゲーム性を左右する要素なのだ。
ファミコン版ドラクエ2は有名なJRPGとしては最も難しいと言われるが、その理由の筆頭は経験値稼ぎにかかる時間の長さにある。
本作は通しでのテストプレイをしておらず、制作者自身が「経験値の調整に失敗した」と明言していることで有名。バグ技(いわゆる『はかぶさ』)を使わなければ、ラストダンジョン前で5〜10時間程度の経験値稼ぎを強いられる凄まじい作品だ。
そんなドラクエ2も経験値稼ぎが100倍速でできるならば、大して難しいと言われることもなかっただろう。
あくまで上記は極論だが、実際に自動戦闘や演出の高速化を極端に進めた作品はゲーム性が崩壊する危険がある。
行き着く先はプレイヤーのやることの消滅である。やることがないなら、ゲームである必要もないのでアニメでも見ていたほうがマシ。
……というように、快適性をとことん追求した結果、無味乾燥な虚無ゲーになっていないかは気をつけたい。
ゲームがゲームであるためには、最低限の面倒臭さ(ペナルティ)は必要ということなのだと思う。
心理的なペナルティ
「ゲームにおけるペナルティはほとんどの場合、時間に換算できる」と述べたが、そうでないペナルティがあるとすれば、残るは心理的なものだろう。
つまり「敗北した」「失敗した」「損した」「取り逃がした」という悔しさや「仲間が死んだ」という悲しさだ。
ペナルティを印象付けたい場合は、こういった要素を強調してみるのもよいだろう。敗北があってこそ、その後の勝利が際立つという側面もある。これはゲームシステムについてもストーリーについても言えることだ。
ただし「損した」「取り逃がした」が余りにも多く発生するゲームは嫌われる傾向にあるのでほどほどに……。
例えば、これまで説明してきた内容によって『限定的なレベルアップボーナス』はかなり強力なペナルティと成り得ることが分かる。
ここで指すレベルアップボーナスは過去に以下の記事で説明している。
https://newrpg.seesaa.net/article/280090650.html#item2
レベルアップボーナスは見方を変えれば「レベルアップ時にボーナスを得られないと損する」システムである。
多くの作品ではレベルアップできる回数が限られているため、事実上「取り返しのつかないペナルティ」として機能してしまう。
取り戻す唯一の手段は最初からやり直すことのみ。ほとんどの作品ではクリアには何の支障もないのだが、気にする人は気にしてしまう。
ボス戦限定のレアドロップなど入手機会の限定されるアイテムなども理屈上は同じである。
ペナルティにおいては、こういったプレイヤーの心理面も考慮していきたい。
ペナルティとゲームデザイン
ペナルティは必ずしも低ければ良いというわけでもないし、高ければ良いというわけでもない。制作者の目指すべき理想や対象とするプレイヤーの層によって正解は異なる。
近年はゼルダの伝説ティアーズオブザキングダムのように「難易度は高く何度も死亡するが、ペナルティは低く長時間のやり直しはない」という死にゲー的なゲームデザインのヒット作も珍しくなくなった。
これはヘビーユーザを満足させる一方で、ライトユーザにも最低限の配慮をするということかもしれない。
ドラクエ3HD2DやFF16が過剰なぐらいライトユーザに配慮したシステムを搭載する一方で、こういった作品が強く支持されている事実は興味深い。
ペナルティを考慮しながら、理想のゲームデザインを追求していこう。
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