一方で「つまらない雑魚戦とは何か?」という問題には、ある程度の答えを出せると思う。その一つは雑魚戦が作業と化していることだ。
一般的にRPGの雑魚戦には以下のような特徴がある。
- 同じ敵と何度も戦う。
- 回数が多い。長編ならクリアまでに何百回と戦うことも。
- ボスより弱く、プレイヤーが負けることは少ない。
上記の特徴により、雑魚戦は「同じ条件で同じ敵と戦う」場面が何度も発生しがちになる。必然的にその結果も見えており、運の要素が大きくない場合は、一度倒した相手に負けることは少ない。
つまり、多くの雑魚戦は構造的に「開始した瞬間からプレイヤーの勝利が確定している作業」のようなものとなっている。勝利までの流れも多くの場合で一定となっており、そうなると新鮮味も薄くなってしまう。
当然、こういった戦闘を何度も繰り返すのはプレイヤーにとって退屈となる。
そこでどのようにすれば、この作業感を軽減できるのかを考えてみたい。
目次
リソース管理を活かす
敵構成に変化をつける
ランダム性を高める
難易度を上げて緊張感を演出
戦闘の比重を下げる
報酬を奮発する
まとめ
リソース管理を活かす
最も古典的な方法はリソース管理を活かすことだ。
リソースとはHPやMP、回復アイテムなど数に限りのある資源を指す。ここでは特に戦闘が終了しても引き継がれるリソースを指す。
【参考】戦闘システムB リソースシステム
https://newrpg.seesaa.net/article/316336123.html
例えば、ドラクエシリーズではダンジョンを進む中でHPやMPなどの管理を行う必要がある。繰り返される戦闘の中でリソースは徐々に減少していくので、刻一刻と状況に変化が生まれる。
ダンジョンの入口付近では楽勝だった雑魚敵も、MPが尽きた状況では対処が困難になるというわけだ。
そして、そうならないために、プレイヤーも雑魚戦でいかにHPやMPを温存するかという駆け引きが生まれる。
もちろん、リソース管理はバランス調整が肝となる。
もし、MPを消費しない攻撃手段だけで、敵を蹴散らせるならMPの価値は薄れる。あるいは、MP自体を簡単に回復できてしまうなら、やはりプレイヤーが悩む必要もなくなってしまう。
前述した通り、リソース管理は古典的な手法であり、旧来のRPGではこれによって長いダンジョンに緊張感を持たせるよう設計されていた。
ところが、時代と共にリソース管理を大幅に緩和された作品が出るようになっていった。
- ロマンシングサガ2では戦闘終了後にHPが全快するようになった。
- ドラクエ6ではMPを消費しない特技が猛威をふるい、ドラクエ11(正確には3DS版DQ8から)ではレベルアップでHPやMPが全快するようになった。
- FF13やゼノブレイドに至ってはMPに該当する要素も存在しないため、リソース管理の必要性もほぼなくなってしまった。
リソースの制限がゆるい場合、消耗を考えず思い切り戦えるという利点もある。
一方でリソースの制限には上記のような重要性もある。
リソース管理を不要にした結果、全体としてかえって退屈なものになっていないかはよく考えたい。
敵構成に変化をつける
敵の種類や組み合わせが豊富ならば、同じ条件での戦闘が少なくなる。
長いダンジョンでも出現する敵が徐々に変わっていくなら、単調さもいくらか緩和できるだろう。
ただし、敵が変化しても強さがあまり代わり映えしないようなバランスだとこの効果は実感できない。しっかりと敵の個性をつけよう。
時折、敵が行動する前に一方的に完封できてしまうシステム&バランスの作品も見かけるけど、これも敵の個性が見えなくなってしまうという点では同じなので注意して欲しい。
ランダム性を高める
敵の行動パターン、命中率やクリティカル、状態異常の命中率などのランダム要素を組み込むことで変化をつける。前述した敵構成にランダム性を組み込んでもいいだろう。
これによって、戦闘が同じような展開になることを減らす。さらには、油断すると雑魚戦でも思わぬ苦戦を強いられるようにする。
これはメガテンシリーズが分かりやすいだろう。
弱点を突いたり、クリティカルが発生すると連続行動できるプレスターンはシステム的にもこれを強調している。
ただし、あまりやりすぎると理不尽な運ゲーになるので注意。
難易度を上げて緊張感を演出
「油断すると雑魚戦でも思わぬ苦戦を強いられる」という点は上と同じだが、それを難易度面でも強調する方法。
上述したメガテンの他、サガシリーズなども分かりやすい。
必然的に一戦闘が重くなりやすいことには注意。
雑魚戦が長びくのは作業感をむしろ強めるので、場合によっては逆効果になりかねない。
ロマサガシリーズのように、雑魚戦は短期決戦かつ激しい戦闘を意識するといいかもしれない。
戦闘の比重を下げる
戦闘を何度も長々と見せられるのが退屈なのだったら、なるべく見せないでしまえという発想。
格下との戦闘を短期決戦にしたり、自動戦闘でサクッと終わらせられるようにする。マザーシリーズなど格下の敵は戦闘なしで瞬殺できる作品もある。
あるいは、ダンジョンの長さやエンカウント率を抑えて、ほどほどの戦闘回数で次へ進めるようにしてもよい。
また、逃走率を高めに設定するのも、戦闘の比重を下げる方策である。
ドラクエの聖水のように格下の敵とのエンカウント率を下げるアイテムやスキルを作るのもよいだろう。
この種の機能はシンボルエンカウントだとあまり見かけないが、工夫次第でやりようはあるので試してみて欲しい。
あるいは、レベルが上がると自動的に敵が寄ってこなくなるようなシステムを作ってみてもよいと思う。
ただし、道中の雑魚戦の回数を抑えても、ボス戦が壁となって結局雑魚戦での稼ぎを何度もさせられるなら本末転倒なのは言うまでもない。
一見すると『難易度を上げて緊張感を演出』とは逆に、難易度が低めでストーリー重視の作品に向いていそうだが、実は高難易度の作品とも相性は悪くない。
例えば、ロマサガ2では、
- 雑魚戦は短期決戦。
- シンボルエンカウントによって戦闘を回避しやすい。
(少なくとも同時代のRPGよりは)
- 戦闘から100%逃げられる。
(重大なデメリットはあるけど……)
- ダンジョンもそこまで長くない。
というように、戦闘の比重を下げるための調整が多くなされている。
このように「高難易度だからこそ、戦闘の回数や長さを抑える」という調整もアリだろう。
報酬を奮発する
戦闘自体は作業であっても報酬がおいしいなら、それなりに頑張れるというもの。
ここでいう報酬とは経験値やお金などを意味しており、その大半がプレイヤーの強化につながるものとなる。
報酬が多いということは、プレイヤー側の強化も早いということ。
当初は苦戦していた敵に楽勝できるようになるため、プレイヤーとしても気分が良い。変化を実感できるため「同じことを繰り返している」という感覚も薄れるだろう。
逆に言うと、戦闘の報酬が乏しい作品では戦闘の作業感が増してしまう。
これはシステム面の問題によって引き起こされることもある。
- レベルキャップなどの成長限界にすぐ達してしまう。
- 敵が格下だと得られる経験値が大きく下がる。
- こちらに比例して敵も強くなっていく。
具体的には上記のようなシステムが例として挙げられる。
意味のない戦闘をさせるぐらいなら、戦闘自体をカットできるようにしたほうがマシかもしれない。
では、ただ報酬を多くすればいいかというと、これも意外と難しい。
というのも、前述した通り「報酬が多いということは、プレイヤー側の強化も早い」ということ。つまり、すぐに戦闘に苦戦しなくなってしまう。
戦闘に苦戦しない状態では、強くなりたいというプレイヤーの動機も弱くなる。自然、報酬の喜びも減ってしまう。
つまり、報酬が多いほど報酬が機能しなくなるのが早いという矛盾があるのだ。
対策としては、やはり報酬は程々に割り当てることだろう。
あるいは、敵の強さを負けじとインフレさせる方法も考えられるが、こちらは弊害もそれなりに多い。レベル上げが全ての大味なゲームになりかねないので限度がある。
他にも、戦闘内容によって報酬を増やすような仕組みがあれば、勝敗の確定した雑魚戦であっても操作を頑張る動機が生まれるかもしれない。
ただし、それ自体が新たな作業を生み出すこともあるので要注意。
まとめ
近年プレイしたRPGにおいて、格下との雑魚戦に強い作業感を覚えることが個人的に多かった。
その原因と対策を考えたのが、この記事だと言える。
特に近年はリソース管理のゆるい作品が増加傾向にあり、加えてマップも広大化しているため戦闘回数も多い。それらが大きな原因なのではないかと推察している。
なお、この記事で挙げた項目の中には相反するものもあることに注意して欲しい。
例えば、『戦闘の比重を下げる』ために確実に戦闘から逃げられるようにした場合、『難易度を上げて緊張感を演出』『リソース管理を活かす』といった方向にはマイナスに作用してしまう。
どれだけHPやMPが減っていても安全に進めてしまうのだから、必然的にそうなってしまう。
どの手段を取るのかは自由だが、ゲームデザインの方針には矛盾がないようにしておこう。
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