昨今のRPGでは、大手メーカーの大作からインディーゲームまでサブクエストが当たり前のように存在している。
SFCの時代にはいくつかの寄り道要素がある程度の作品が大半だったが、今となってはサブクエスト制を採用していない作品のほうが珍しいかもしれない。
そんなサブクエストについて、一度考察してみたい。
ここではサブクエストという呼称を使うが、寄り道要素全般を扱う。
なお、以下の『自由度』に関する講座と内容は多少かぶっている。
https://newrpg.seesaa.net/article/377351764.html
目次
サブクエストの種類
標準型
賞金首型
簡略型
自動生成型
派遣型
サブクエストの開始方法
施設で受注
依頼者から受注
突発的に発生
メインクエストから派生
サブクエストの利点
攻略自由度の増加
任意性
ストーリーの補完
経験値稼ぎの代替
内容の水増し
サブクエストの欠点
メインストーリーとの相性
メインストーリーのテンポ悪化
面倒ならやらなければいいの問題点
クリア率の低下
バランス調整の複雑化
サブクエストを面白くする方法
本編との接続
連作短編
コミカル
意外な導入
ご褒美を用意する
テンポを良くする
数を絞る
複数種類の混在
ミニゲーム
まとめ
サブクエストの種類
まずはサブクエストの種類を挙げてみたい。
どのようなサブクエストを採用するかによって、作品の雰囲気も変わってくるはずだ。
標準型
メインクエストとほぼ変わらない品質のイベント。
導入から結末まで短編としてのストーリー性があるため、最も手間がかかる。
個人的にはアークザラッド2が印象深い。
賞金首型
ボスを倒すことを目的としたイベント。
基本的にストーリー性はほぼなく、ボス戦のみとなる。
ボス戦までの流れを凝ったものにした場合は、標準型と変わらなくなる。
メタルマックスシリーズやFFシリーズなど数多くの作品で見かける。
簡略型
標準型を大幅に簡略したもの。
依頼文と報告以外はほぼストーリー性がない。
「スライムを10体倒せ」「薬草を5個持ってこい」のような内容が多く、いかにもなお使いイベントである。
依頼文の内容を頑張れば申し訳程度にストーリー性を出すこともできるが、さすがにこれだけで面白くするには限界があるだろう。
自動生成型
内容的には簡略型に近いが、さらに内容をランダム生成したもの。
クリアしても終わらず、無限に引受けできる場合もある。
AIの発展に伴い、将来的にはもっと複雑なイベントが自動生成されるようになるかもしれない。
派遣型
戦闘に参加しないメンバーを派遣するイベント。
FFTの儲け話やゼノブレイド2の傭兵団任務など。
一度派遣した後は、時間経過(日数経過、プレイ時間など)を待つだけで操作をすることはない。つまり放置型である。
内容そのものは簡略型のような単純なものであることが多い。
サブクエストの開始方法
サブクエストはその開始方法によっても個性付けができる。
作品内で統一するか、場合によって異なる開始方法を取ってもよい。
施設で受注
ギルドなどサブクエスト用の施設で受注する。
開始方法が分かりやすく、見落としが発生しにくいのが利点だろう。
依頼者から受注
町の住民など依頼者から直接受注する。
依頼者を誰にするかによっても個性づけができる。
突発的に発生
必ずしも依頼という形式を取る必要はない。
例えば、落とし穴から洞窟内に落下した後で「洞窟から脱出しよう」というようなクエストを発生させてもよい。
メインクエストから派生
メインクエストの最中にサブクエストを発生させてもよい。
例えば「ボスを倒すにはとある武器が有効だが、別になくても倒せる」というように必須ではないクエストを発生させるなどだ。
他にも、取り逃した敵キャラの行方を追う寄り道クエストなんていうのはどうだろうか。
サブクエストの利点
ゲーム制作者はどのような狙いでサブクエストを制作するのか? 利点を考えてみよう。
攻略自由度の増加
サブクエストは進行するタイミングなどの自由度が高い。
それによって、ゲーム性を向上させる効果がある。
例えば、あるクエストで手に入れた武器が、別のクエストのボスの弱点だったりすれば、攻略を工夫する余地が生まれる。
任意性
プレイヤーはサブクエストのやるやらないを選択することができる。
つまり「面倒ならやらなければいい」というわけだ。
重要でないクエストをサブに回すことで、プレイヤーは理想のテンポでゲームを進めることができる。
ストーリーの補完
サブクエストを活用すれば、メインクエストでは描ききれなかった部分を補完できる。
プレイヤーに強制するほどではないイベントは、サブクエストとして実装すればよいだろう。
経験値稼ぎの代替
古典的な経験値稼ぎの代わりの手段として、サブクエストを活用する方法。
経験値稼ぎは同じことの繰り返しになりやすく、飽きられやすい。サブクエストという形式を取れば、そういった単調さを緩和できる。
『簡略型』や『自動生成型』と組み合わせるのもよいかもしれない。
内容の水増し
本編だけだとすぐに終わってしまって物足りない――なんて作品はサブクエストによって内容を水増しすることができる。
本編に継ぎ足すよりは、独立したプロットでイベントを作成できるため、比較的に作りやすいという利点はある。
奥深いシステムや豊富なスキルを作ったのに、それを活かすだけの本編の規模がない――なんていう場合は使えるかもしれない。
なお、水増しという言葉は一般的にネガティブな意味で使われることが多い。当然、デメリットもあるので後述する。
サブクエストの欠点
サブクエストにはそれなりに大きな欠点がある。
そのため、流行だからといって思考停止で導入することはオススメしない。
以下に欠点をまとめてみた。
メインストーリーとの相性
当然ながら、メインストーリーに切迫感がある作品と寄り道要素は相性が悪い。
「人質の命が危ない、一刻も早く助けないと!」とか「このままではあと二週間で世界が崩壊してしまう!」とか「ヒロインの余命はあと一ヶ月!」みたいな状況で寄り道三昧をしていたら、違和感が半端ない。
こういった設定をせざるを得ないにしても、明確かつ短い期間は出さないほうが無難だろう。
メインストーリーのテンポ悪化
メインストーリーでグイグイ引っ張るタイプの作品は、サブクエストと相性が悪い。
「次の展開を見たい!」とプレイヤーに強く思わせても、それをサブクエストが挟まることによって腰を折ってしまうためだ。
1〜2時間かけてサブクエストをやっているうちに、熱が冷めてしまったり、話を忘れてしまったなんてこともあるかもしれない。
これは非常に大きな欠点であり、決して無視はできない。
ならば、「面倒ならやらなければいい」と思うかもしれないが、これもそう簡単な話ではない。
面倒ならやらなければいいの問題点
サブクエストの利点として任意性――つまり「面倒ならやらなければいい」ということを前述した。しかし、これは常に通じるわけではない。
というのも、プレイヤーにとって要不要を判断するのは、それなりに難しいことだからだ。
サブクエストをやらなかった結果、プレイヤーは強力な装備が手に入らず不利になるかもしれないし、面白いイベントを見逃すかもしれない。最悪、エンディング分岐に影響するかもしれない。
そういった不利益を嫌うならば、プレイヤーは多少つまらなそうなサブクエストでも我慢してやらざるを得なくなってしまう。
そもそも、サブクエストがつまらないかどうかはやってみなければ分からないものだ。
結果、サブクエストの存在によって、作品全体の評価が下がったりしては目も当てられない。
そんなわけで、質より量を優先してサブクエストで内容を水増しすることは、個人的には否定的に考えている。
クリア率の低下
サブクエストでゲーム内容を水増しすると、ゲームの質が下がると同時にクリアまでの時間は伸びていく。
そして、プレイヤーのクリア率は下がっていく。
PSやSteamのトロフィー(実績)機能を見れば分かりやすいけれど、ゲームのクリア率というものはプレイ時間に比例して如実に下がっていく。
これは「一見して難易度が低く誰でもクリアできそうな作品」でも例外ではない。何十時間もゲームをプレイするという作業は、かなりの根気を要するものなのだ。
参考
【コラム】市販RPGのクリア率
https://newrpg.seesaa.net/article/445846101.html
あくまで、筆者の経験則になるが「クリアできたけど短くて物足りなかったゲーム」と「長さにうんざりしてクリアできなかったゲーム」なら、後者のほうが印象が悪いように思う。
そして、長ったるい作品は時間を無駄にしたと感じるため、次回作があったとしても手を出さなくなる。
特にストーリーのつながった続編にとっては致命的だ。クリアを諦めたRPGの続編に手を出す人なんて、相当な物好きぐらいだろう。
続編に限らず長期的な商業展開を考える場合、ユーザの信頼を得るためにも過度の水増しは避けるべきではないだろうか。
バランス調整の複雑化
サブクエストをこなすかどうかによって、プレイヤーの強さは変化する。サブクエストの報酬をしっかり用意すればするほど強さの変化は大きくなる。
結果、想定する難易度の範囲は一本道のRPGより広くなってしまう。
寄り道をたくさんしたプレイヤーにとっては簡単なボス戦も、メインクエストだけを一直線に進んできたプレイヤーにとっては難関かもしれない。
サブクエストをプレイヤーが一切やらない前提で調整するにしても、ある程度のクリアを前提とするにしても、誰もが満足する難易度設定は難しいだろう。
サブクエストを面白くする方法
結局のところ、サブクエストがプレイヤーを夢中にさせるほどに面白ければ、全ては許される。
というわけで、サブクエストを面白くする方法を考えてみたい。
通常のイベントを面白くする方法については、過去に以下の記事を書いたので、こちらも参考にして頂きたい。サブクエストだろうが、メインクエストだろうが基本は同じである。
参考
面白いイベントを作るには?
https://newrpg.seesaa.net/article/281558360.html
例によって、無理に全てを採用する必要はないので、取捨選択をして欲しい。
本編との接続
サブクエストの利点として『ストーリーの補完』を挙げた通り、サブクエストは本編とも積極的に絡めていきたい。
例えば、主人公や仲間を初めとして、本編で登場したキャラクターを掘り下げるようなイベントを作成してみよう。
ポッと出のモブキャラに頼まれたお使いイベントを面白くすることは難しいので、積極的にキャラクターの魅力に頼っていきたい。
そういった意味では、サブクエストはいわゆるキャラゲーにも向いている。
具体的には……
- 仲間の掘り下げイベント。
- 本編では出番に恵まれなかったサブキャラのその後。
- 本編では中途半端になっていた敵キャラのその後。
のようなイベントが考えられる。
仲間の掘り下げイベントを仲間の最強装備の入手イベントにしてしまうのも良い方法だ。ご褒美にもなるので、ゲームを大いに盛り上げてくれるだろう。
連作短編
サブクエストをクリアしたら、さらなる関連クエストを発生させてみよう。
同じ依頼主によるクエストを連続させてもよいし、全く予想できないような派生をしても面白い。
例えば、ある町で良かれとやったクエストが、別の町では災いの原因になってしまう――なんていうのはどうだろうか。
このようにすれば、複数のクエストによって単なる短編には留まらない大がかりなストーリーも描くことができる。
依頼主などの登場人物を印象づけやすいことも利点となるだろう。
コミカル
サブクエストはコミカルなイベントにも向いている。本編ではできないような馬鹿馬鹿しいイベントを作ってみよう。
もちろん、仲間との楽しい会話も忘れずに。
意外な導入
最もありきたりなサブクエストの形式は、誰か(特にギルドなど)から依頼を受けるようなものだろう。
そこでそのありきたりを裏切ってみよう。
例えば、冒険の途中で唐突に巻き込まれるようなクエストを作ってみると面白いかもしれない。
ご褒美を用意する
基本中の基本。
……なのだが、現実にはサブクエストの報酬が手間に見合わない作品はかなり多い。個人的には近年のRPGをプレイしていて、強く不満を感じる部分である。
- 一時間かけて達成したクエストの報酬が、何に使うのかもよく分からない合成素材だった。
- 大金が手に入ったが、そもそも金に困っていない。
- 新しい仲間が加入したが、初期から加入した仲間のほうが強いので出番がない。
……なんてことはありがち。
店や宝箱、ドロップアイテムなど普段から強力なアイテムが簡単に手に入るような作品なら、クエスト報酬のありがたみは薄くなる。そのためには、全体を通したバランス調整が必要だ。
また、お金を報酬に含めるのは基本だが、普段からお金に困らないようなバランスではありがたみは薄れる。既に足りているものをもらっても、大して嬉しくないからだ。
新しい仲間の加入は報酬としても、とても魅力的だ。ただし、サブクエストで加入するキャラクターの本編での扱いは難しい。
PS版FF7のユフィ&ヴィンセントのように、本編ではいない可能性を想定しなければならない。となると、大きく物語に絡ませることも難しい。
転職システムにおける職業のような要素があるならば、その解放は強い動機になるので積極的に活用していこう。
その他には、経験値やスキルポイントのような作品独自のポイントを報酬に含めてもよいだろう。
テンポを良くする
メインストーリーの腰を折りたくないならば、サブクエストはテンポを良くするように意識しておきたい。
具体的にはダンジョンは短く、イベントも長すぎないように。ボス戦も短期決戦にする。ノーヒントのアイテム探しのような辛いことはさせない。
数を絞る
質を高めるにはやはり数を絞ったほうがいい。
個人的にはかなりの大作でもメインストーリーがしっかりあるならば、サブクエストは10〜20もあれば十分だと思う。
数を絞れば、メインストーリーの腰を折ったり、ゲームバランスを崩したりといった問題も軽減できる。
複数種類の混在
前述したサブクエストの種類を組み合わせることで、それらの長所を活かしていく。
例えば、簡略型や自動生成型は単調なイベントになりやすく面白みは薄い。重要なイベントでないことはプレイヤーにも一目瞭然だが、それはある意味では長所にもなる。
つまり「面倒ならやらなければいい」ということが分かりやすい。プレイヤーは自然と稼ぎなどの目的がある場合のみ取り組むようになるだろう。
ミニゲーム
寄り道要素といえばミニゲームの存在も忘れてはならない。
カジノやすごろくなどのギャンブル系や、シューティングやレースなどのアクション系など色々と考えられる。長い物語の良いアクセントになるかもしれない。
ただし、通常とは異なるゲーム性を強要されること自体をストレスに感じる人も多い。特にRPGのプレイヤーはアクションを苦手とする傾向も強いはず。
当然ながら、ストーリーの腰も折りやすいだろう。
FF10はシリーズでも非常に評価の高い作品だが、最強武器の入手にミニゲーム(特に雷避け)が必要な仕様については不満の声が多く上がっていた。
個人的にはミニゲームは無理してまで取り入れる必要はないと思う。
まとめ
作品とサブクエストの相性は真っ先に考えておきたい。
ストーリー重視を標榜しているのに、質の低いお使いクエストがたくさんあるようでは、高い評価を得られないだろう。
反対にゲーム性に優れた作品で、各クエストのご褒美も適切ならば、多少のお使いイベントも許容されるかもしれない。ゲームが面白いからストーリーはおまけというわけだ。
サブクエストをあえて採用しないというのも立派な判断だ。
特にメインストーリー重視の作品ならば、安易なサブクエストの乱発は考えものだろう。
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