【RPG制作講座】行き過ぎた快適性

2023年09月14日

 昔、快適性に関しての記事を書いた。
 https://newrpg.seesaa.net/article/220111934.html

 上の記事のように、筆者は快適性を強く重視すべきと考える。
 ロード時間や演出が短く、スピーディなゲームは一般的に高く評価されやすい。パラメータ調整や、過剰な演出&不要な要素のカットだけでも快適性は向上できるため、費用対効果も非常に優れている。

 しかしながら、快適性にもやりすぎた場合の弊害がある。
 一般的には、快適性が低いことが問題になるケースが圧倒的に多く、なかなかこの問題にまで行き着くことはない。
 実際、10年以上前に記事を書いた時には、そんな問題はほとんど考えてもみなかった。

 ところが、近年は快適性を重視しすぎた結果、問題を起こしている作品を、見かけるようになったので、注意点として挙げてみたい。

目次


速すぎる戦闘

入力速度と演出速度のギャップ

演出時間とゲーム性

戦闘演出カット

エンカウントなし

速すぎる移動速度

対策案

まとめ


速すぎる戦闘


 一般に演出がスピーディな戦闘は好まれる。
 だがそれも、度が過ぎると問題を引き起こす。


 まず、プレイヤーの脳内処理が戦闘のスピードに追いつかなくなってしまう問題だ。あまりにも速すぎると、何が起こっているのか分からなくなる。
 結果、プレイもどことなく雑になって、作品が楽しめなくなっていったりする。

 気をつけておきたいのは、プレイヤーは作者ほどには作品を理解していないということである。
 作者は作品を深く理解しているため、極端にスピーディな戦闘でも何が起こったかを十分に把握できてしまう。敵が高速で放った効果の複雑なスキルを一瞬で見抜いてしまうというわけだ。

 あくまで初見のプレイヤーがどう見えるかを意識しよう。序盤からパーティ人数やスキル数が多い作品など、必要な情報が多い場合は特に注意したい。

入力速度と演出速度のギャップ


 それ以上に深刻で見落とされがちなのは、プレイヤーの入力速度と演出速度のギャップによって引き起こされる問題だ。

 戦闘演出の高速化を極限まで進めていくと、必然的に戦闘においてプレイヤーの入力時間が占める割合が大きくなっていく。
 一般的に、プレイヤーの入力機会が多いということは、ゲーム性が高いということになるはずだ。それ自体は好ましく感じられるかもしれない。
 だが、これは時にゲーム性に歪みをもたらすことがある。

具体例

 オーソドックなターン制の戦闘システムの作品を例にして考えてみよう。
 この作品の戦闘演出は非常にスピーディで、一つの行動には一秒もかからないとする。

 例えば、通常攻撃や同じ技の連打、自動戦闘など入力の手間がかからない手段を使えば、1ターンが5秒で終わるとする。
 一方でプレイヤーが戦術を練りながら丁寧にコマンドを入力すると、1ターンに25秒かかるとする。

 1ターン辺りの時間差が5倍もあることに注目して欲しい。
 つまり、プレイヤーが丁寧に操作するよりも、雑に操作したほうが圧倒的に早くなってしまう。
 これは意図せずして、プレイヤーに雑なプレイを強く動機づけしてしまう。

 特に……

  • 通常攻撃が強力
  • 自動戦闘が強力
  • リソース管理の要素がゆるい
    ※「戦闘後にHPが全快」「MPが存在しない」「回復手段が豊富」など
  • コマンド入力に時間がかかる
    ※「パーティ人数が多い」「スキルの数が多い」「システムが複雑」など

 上記のような作品は要注意だ。

 雑魚戦で負けるリスクが低く、下手に戦ってもリソースを消耗しないならば、ボタン連打などで雑に処理したほうが格段に効率がよくなってしまう。

 気がついた時には、ただただボタンを押すだけ。ファミコン時代のRPGよりやることがないなんてことも……。

演出時間とゲーム性


 意外かもしれないが、演出時間はゲーム性を大きく左右する。演出時間は決してゲーム性から独立した存在ではない。
 というのも、多くのプレイヤーは時間そのものを判断の基準にするからである。

 プレイヤーは誰もが最小ターン勝利や最小被ダメージ勝利を目指しているわけではない。25秒かけて1ターンで勝利するより、2ターンかかっても10秒で勝利できるなら、後者を選ぶ人は多いだろう。

 雑魚戦での経験値稼ぎなら、時短を目指したほうが圧倒的に効率が良いのでなおさらである。結果的に、パーティの成長も早くなるので困ることは少ない。

 ……というように、速すぎる戦闘は時にゲーム性を崩してしまう。
 通常なら演出時間がネックとなることで、保たれていた均衡が崩壊してしまっているわけだ。

戦闘演出カット


 戦闘演出カットは便利なシステムである。これがあれば、長い演出に悩まされることもなくなる。
 ……が、快適さと引き換えに味気なさをもたらす。

 以前、技の演出が非常に長い代わりに、ワンボタンで演出スキップできるゲームをしたことがあるのだが、必然的にほとんどの演出を飛ばすことになった。

 その結果、ただただ表示されるダメージを眺めるだけの味気ない戦闘となってしまった。
 まるでファミコン時代である。
 想像力を働かせる余地がある分、ファミコンのRPGのほうがマシかもしれない。
 現代においては、プレイ動画の見栄えが今一つになるのも無視できない欠点と言えるだろう。

 個人的にはそもそもの演出を短めにすれば、演出カットは不要だと思う。やるにしても、奥義などの大技だけ飛ばせるようにするとか。

エンカウントなし


 個人的な経験談。

 昔、作った作品で『エンカウントなし』を実現する装備を中盤〜後半の時点で入手できるように設定したのだが、プレイヤーからは「手応えがなくなった」「ダンジョンがむなしい」という不満が上がった。

 「だったら使わなければいいじゃん」とこっちは言いたくなるが、人間とは楽なほうに流れるものらしい。
 一応、該当のアイテムは多少入手条件を難しくしていたのだけど、難しいものである。

速すぎる移動速度


 過去、別の記事に書いたので割愛。せっかくなので、リンクを貼っておきます。
 https://newrpg.seesaa.net/article/280090650.html#item5

対策案


 上記の問題の大半は、そもそもが「戦闘が面倒臭い」ということに端を発している。
 よかれと思って、制作者が取った対応が裏目に出てしまっているわけだ。

 戦闘の快適性を向上させたいなら、まず戦闘回数自体を減らすゲームデザインを検討してみることをオススメしたい。
 エンカウント率を低く、ダンジョンもほどほどの長さにする。戦闘自体もほどほどにスピーディにするが、あくまで常識の範囲内で実装する。

 こうすれば、一度の戦闘の密度を高められるので、連打ゲーや自動戦闘ゲーにはなりにくい。

 自動戦闘については、そもそも採用しないのも選択肢だ。もしくは自動戦闘は通常攻撃限定にするなど機能を限定してもよい。
 他にもリソース管理が厳しく、自動戦闘ではすぐにMPが枯渇してしまうようなバランスならこういった問題は起きづらい。

まとめ


 ゲーム性を犠牲にしてまで快適性を極限まで追求してしまうことはオススメできない。行き過ぎると、かえって作業となってしまうからだ。

「戦闘は何の操作をしなくても自動で終わります」
「演出は完全にカットできます」
「むしろ、戦闘そのものもカットできます」

 最終的にはマップを移動しながら、ひたすらフラグを立て、イベントを鑑賞するだけの作品と化してしまう。
 果たして、これが面白いかと言われると難しいところだろう。

 個人的に疑問に思うのは、雑魚戦を軽視しているのに『数多くの雑魚戦』『長めのダンジョン』『長時間の経験値稼ぎ』といった古典的RPGの特徴を強く踏襲してしまっているパターンだ。

 そういった古典的RPGのスタイルは、そもそもが「雑魚戦は楽しいもの」という大前提で設計されている。
 ※誰に確認したわけでもないけれど、そうでなければ大半のRPGは苦行になるので説明がつきません。

 そのため、雑魚戦を重視しないなら、古典的RPGを踏襲する意味もあまりないように思う。

 極論を言うと雑魚戦を嫌うなら、もうイベント戦闘だけに限定してしまってもいい。ダンジョンの中身もカットして、一枚絵と立ち絵だけでイベント進行してしまってもいいぐらいじゃないかなと。

 ただし、戦闘が減れば、必然的に他の要素の比重が増えることになる。その『他の要素』に面白みがなければ、やはりその作品はつまらないゲームとなってしまう。
 ストーリーやイベント演出に自信があるなら一つの手段ではあるけれど、そうなると「ADVでよくね?」「アニメでよくね?」といった疑念も湧いてくるのが、また悩ましいところではある。

>RPG制作講座目次に戻る
posted by 砂川赳 at 11:31 | RPG制作講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする