戦闘バランスC ボス敵の設定
https://newrpg.seesaa.net/article/206919474.html
なお、この記事を書いた2022/05/31の時点で10年以上が経過している模様。月日の流れは早い……。
ボス戦を面白くするためには、戦闘を単調化させないことが何より重要。基本はザコ戦と同じで、無闇に戦闘を長引かせないこと。特に何十ターンも同じ攻撃と回復を延々と繰り返し続けるような、長いだけの戦闘はつまらないの一言に尽きる。
……なんてことを書いていたけど、もう少し理論的に掘り下げてみたい。
目次
ボス戦のサイクル
安定サイクルを崩そう
強力すぎる回復の弊害
プレイヤーの戦術性
まとめ
ボス戦のサイクル
ボス戦のバランス調整において、まず考えたいのは「ボスの攻撃をプレイヤーが安定して受けられるか否か?」である。
これは逆の事象――「プレイヤーの攻撃をボスがどの程度耐えられるか?」よりも優先して考えておきたい。
なぜかというのは、オーソドックスなRPGのボス戦の特徴を考えてみれば分かりやすいだろう。

- ボスは一体、味方は複数人。
- ボスのHPは味方の何倍も高い。十倍以上も当たり前。
- 味方は強力な回復能力を持ち、何度も使える。
- ボスは回復能力を持たないか、あっても限定的。
これらの特徴により、プレイヤーは「ボスの攻撃を受ける」→「回復する」→「合間に攻撃する」というサイクルを繰り返すことになる。そして、その繰り返しによってダメージを蓄積し、ボスを倒すという流れになるはずだ。
これはドラクエ3の時代には確立されていた様式である。
ストーリーと絡めて考察すれば「強大な人外の敵を人間達が力を合わせて倒す」という構図をゲームデザインに落とし込んだものといえそうだ。
例えば、剣で何十回と斬られても倒れない巨竜と、人間の戦士が同程度にタフならば違和感があるだろう。
そこでHPに大差をつけた上で、味方には回復能力を付与することでバランスを取るという仕組みである。
※当前、例外も存在するが、有名なのはポケモンだろう。モンスター同士の戦いであるため、味方と敵の条件はほぼ同じ。ボス戦であっても短期決戦が基本となるため、必ずしも耐久側が優先事項にはならない。
これにより、サイクルを維持できるかどうかが、勝敗を分ける基準となることが分かる。難易度調整をする上で大きな目安となるだろう。
そして、重要なのは「サイクルを安定して維持できる」ならば事実上、勝利は確定するということだ。
つまり、『安定サイクル』が達成できた時点で、ボス戦は事実上の作業と化してしまう。これは見た目上、どんなに派手な演出や数値が飛び交っていても変わらない。
また、こうなると「プレイヤーの攻撃をボスがどの程度耐えられるか?」はほとんど問題にならない。「時間がかかるかかからないか」の違いでしかないからだ。
※あくまで難易度面の問題であって、ゲームテンポ面では重大です。
安定サイクルを崩そう
では、具体的なバランス調整方法を考えてみよう。
例えば、以下のケースはほぼ完全な安定サイクルとなって、勝ちは確定したも同然である。
- ターン制
- ボスは単体で出現、かつ一回行動&単体攻撃のみ。
- 最もHPが低い味方キャラのHPが100
- 受ける最大ダメージが99
- 味方は回復魔法で全回復できる。
- 回復魔法は30回使える。
- 回復役は必ず先制できる。
唯一の不安定要素は回復魔法の回数制限(30回)だけ。普通のRPGならば、十分な安定状態と言ってもいいだろう。
理論上、回復魔法を30回使い切るように敵の耐久度を調整すれば、ギリギリの戦いになる。……が、まず面白くならないのでやめよう。30回は明らかに長すぎる。
当然ながら、これでは戦闘に緊張感がなく同じことを延々と繰り返すだけである。面白くすることは難しいだろう。
そこで、少し不安定となるように崩してみよう。
例えば、以下のような手段が考えられる。
- 敵味方の行動順にランダム性を出し、死人が出る可能性を生む。
- ボスを二回行動にしたり、お供を付けたり。
HPの低いキャラに攻撃が集中すると倒れるようにする。
- ターンによってボスの攻撃の強さに格差をつける。
時折、強力な全体攻撃を使ってくるなど。
- ボスのHPが減ると行動が強化される。
- 味方の回復魔法の使用回数をもっと限定する。
- ボスに異常や補助を使わせて、こちらの計算を崩す。
- ボス戦前の戦闘やダンジョンで消耗させる。
わずかな不安定感を演出するだけでも、意外と緊張感が出る。
例えば、ドラクエシリーズ(正確には4以降)で隊列の4番目のキャラが狙われる確率は約10%である。
最もHPの低い4番目のキャラにボス(二回行動)の攻撃が連続ヒットした場合、死亡するバランスにしたとしよう。
一見、厳しそうに見えるが、その確率は1ターン辺りわずか1%。
ボス戦が5〜10ターン程度で終わると想定した場合、それが原因でプレイヤーが全滅まで追い込まれる確率はほとんどなかったりする。
このようにして、理不尽でない範囲で崩しを入れてみよう。
この崩しは厳密である必要はない。
事実上の安定状態でも、ほどよいランダム性があれば意外と緊張感が出たりする。プレイヤーはデータを完全に把握していないため、安定サイクルに入ったかどうかは容易には分からないためだ。
逆に言えば、「パターン入った!」と簡単に分かるようでは困るということでもある。
強力すぎる回復の弊害
何度も似たようなことを書いているけれど、全体回復、蘇生、MP回復が容易な調整だった場合、ちょっとやそっとでは安定サイクルを崩せないため調整が難しくなる。
それは今回の安定サイクル理論を元に考えれば、より明白になる。
例えば、蘇生アイテムが誰でも簡単に使えるようなバランスならば、単体即死攻撃ですらサイクルを崩壊させられない。
従って、ボス戦が容易に作業となり得る危険性を秘めている。
それ以上の攻撃手段をボスに設定するとなると、かなり際どいところを突くしかなくなってくる。一歩間違えれば、ライトユーザお断りの理不尽ゲーだ。
また、「強力な全体攻撃」→「強力な全体回復」の繰り返しや「単体即死攻撃」→「蘇生」の繰り返しは非常に目立つ。回復側に選択の余地が少ないため、単調になりやすい。必然的にパターンに入ったことが、プレイヤーに見抜かれやすいのも注意すべき点だ。
その他についても、以下の記事で散々書いたので割愛する。
回復魔法の問題点
https://newrpg.seesaa.net/article/462407181.html
プレイヤーの戦術性
さて、ある程度まで安定サイクルを崩せたとする。
無策では確実な勝利を望めないとなると、プレイヤーは勝率を高める対策を練る必要がある。そして、そこに戦術性が生まれる。
- 防具を見直す。
- 異常で敵の攻撃を妨害する。
- 補助で味方の防御を強化する。
- お供がいる場合はお供を倒し、敵の戦力を削る。
- 節約しながら、回復魔法を使う。
- ピンチに防御する。
- やられる前にやる。
無論、プレイヤーが最適解を取れば、理論上100%勝ててしまう調整でも問題ない。大事なのは、何の工夫もなく安定状態にならないことだ。
この中で最も基本的な対策は「やられる前にやる」である。
これは最初に掲示した逆の事象――「プレイヤーの攻撃をボスがどの程度耐えられるか?」に対応する。
その内実も様々で、ダメージ効率の高い技を模索したり、武器を整えたりといった選択肢がある。
そして、これによって、プレイヤーが勝利するための戦術の軸が倍になる。戦術性を高める上ではかなり有用だ。
そのため、ボス戦は「やられる前にやる」がある程度成り立つバランスを心がけておくとよいだろう。基本は過度にボスをしぶとくしないこと。これはゲームテンポをよくする効果も得られる。
ボスがしぶとすぎると「やられる前にやる」が成り立たなくなる。結果、敵の攻撃をしのぎ切る以外の選択肢がなくなってしまう。
そうなると、戦闘が単調になってしまう上に、戦闘テンポも悪化するので注意したい。
まとめ
今回の記事で、面白いボス戦とつまらないボス戦の一つの境界線を示せたと思う。
現行のオーソドックスなRPGを何も考えず踏襲すると、この安定サイクルに陥りやすい。面白い戦闘を目指すならば、何らかの崩しを入れてみよう。
もちろんポケモンのようにゲームデザインの段階で崩すのも面白いだろう。
なお、ストーリー重視などで難易度が低い作品を目指す場合や、重要度の低いボス戦を難しくしたくない場合は、無理に安定サイクルを崩す必要はない。そういった場合も長期戦でテンポが悪くならないようにだけ注意しておきたい。
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