RPGにおいては、戦闘システムに次いで作品のウリになることが多い。一般には『成長システム』とも呼ばれるが、『装備』まで『成長』と表現して良いものか悩むので、本項では強化システムとしてまとめて扱う。
強化システムは、主にキャラクター自体を強化する『成長型』と、装備を強化する『装備型』の2種類に分類できる。
一般的に成長型は経験値(FFのAPなど、独自ポイントも含む)によって、強化する場合が多く、装備型はお金や素材アイテムに依存する場合が多い。ただし例外も多数ある。
強化システムの目的は主に4つ挙げられる。
- 変化をつけて、プレイヤーを飽きさせなくする。
- 努力の蓄積が実を結ぶことを表現し、達成感を演出する。
- 戦略性、戦術性を強化し、ゲーム性を向上させる。
- ストーリーを補強する。長い冒険の中でキャラクターを鍛え上げたのだからこそ、強敵に勝つだけの説得力が生まれる。
何十時間と掛かる長編RPGにおいて、プレイヤーを退屈させないためには、強化システムの存在が不可欠である。
特に……
戦闘する → レベルが上がって、より強い敵に勝てるようになる → 強敵と戦闘する → ……
といったループは単純ながら、プレイヤーにとって強力な原動力に成りうる。RPGの基本要素の1つと言ってしまってもよい。
そんなわけで、RPGにおいて欠かせない強化システムを取り扱ってみる。
例によって、市販RPGでよく使用されているシステムを分類してみた。
レベル制(経験値制)
戦闘を行うことで、経験値を入手する。経験値が一定に達すると、レベルが上がると同時に全体の能力が上昇する。
多くの作品で採用されているが、これだけでは単純なので、他のシステムと組み合わせられることが多い。
長所
- 分かりやすくプレイヤーも制作者も手間がかからない。
- キャラクター毎の個性を維持しやすい。
- 単純ゆえにバランス調整も比較的に容易。
短所
- 単純ゆえに自由度は低い。
レベル制(経験値・活躍分配型)
SRPGでよく用いられるレベル制。
戦闘で敵にとどめを刺すなど、活躍したキャラに対して経験値を与える。
上と異なり参加するだけで経験値が手に入るわけではない。
長所
- キャラクター毎の個性を維持しやすい。
- 誰を優先して育てるかを考える楽しさがある。
短所
- 活躍できないキャラは成長の機会に乏しくなる。
- レベルを上げたいキャラでとどめを刺すために、周りの強いキャラでチクチクとボスのHPを減らすといった調整作業が発生する。
スパロボの幸運(経験値&お金倍増)などの精神コマンドは、この短所をさらに顕著にしている。
「工夫をすると経験値が増える」ということは「工夫をしないと経験値が減る(相対的に)」とほぼ同義だからだ。敵を倒すのにもいちいち気を使わなければならない。
対案として……
- タクティクスオウガのトレーニングなど、本筋以外で稼げる場所を用意する。
ただし、これはこれで面倒も……。
- 戦闘クリア時に全ての参加キャラクターに同一の経験値を渡す。
- 下の振分制のような要素を加味する。
などの方法が挙げられる。
もっとも、この型の味は削れるかもしれないので、一長一短ではある。
振分制
「レベルアップ時」「メニュー画面」「セーブポイント」「施設(訓練所など)」で成長・習得させる能力や技能を決める。
振り分けるためのポイントは戦闘で入手することが大半。
昨今では採用頻度の多い『スキルツリー』と呼ばれるものもこれに該当する。
手順の多いシステムなので、ユーザインタフェースに関わるセンスも求められる。
長所
- 成長に自由度がある。
- システム設計の幅はとても広い。レベル制等との複合型も可能。
短所
- 頻繁な操作が必要となる場合がある(FF10のスフィア盤など)。
ただし、対象となる項目の数を絞ることで軽減が可能。
作品例
多種多様なので、以下の例をご覧いただきたい。伸ばすパラメータを決めるものもあれば、習得する技能を決めるものもある。特に通常のレベルアップによる能力アップを排除して、これ一本に成長システムを集約したFF10や13は異色だ。
女神転生シリーズ
レベルアップ時に伸ばしたい能力を選択する。
DQ8(スキルマスター)
レベルアップ時に習得したいスキルを選択する。
FFT(アビリティ)
メニュー画面にて、戦闘で得たJPを消費してスキルを習得する。
FF10(スフィア盤)
レベルアップ時に上昇させたいパラメータやスキルを選択する。
熟練度制
戦闘で取った行動によって、能力が成長したり、技能を習得したりする。
レベル制のように、一度にまとまった能力が上がるのではなく、個別に能力が成長していく。
長所
- 好きな能力・技能を成長させることができるため自由度がある。
- 活用した技能が成長するというのは自然でわかりやすい。
短所
- 成長させたい能力に沿った戦闘行動を取る必要がある。
つまり、自由に技能を成長させようと思うと、自由に戦闘できない。
- システム設計次第では、成長する能力値が極端になりやすい。
作品例
FF2、サガシリーズ、テイルズオブシリーズ(技能の習得)
FF2とサガシリーズは、通常のレベル制を排除して、能力の上昇も熟練度制に統合している。
テイルズオブシリーズは主に技能の習得について、熟練度性を採用しており、特定の技を使い込むことで、より上位の技を習得するようになっている。
プレイヤーの個性が出る強化システムである反面、バランス調整は中々に難しい。
例えば、ロマンシングサガ2では、強い術を習得するためには、弱い術を何度も使い込んで、レベルを上げなければならない。サガ2では、重要能力である素早さを成長させられる条件が限られていて、上昇させるのが大変だった。
FF2やサガ2のような、能力が極端に偏る型に関しては、今ではほとんど見られなくなっている。やはり、バランス調整上の問題が大きかったのだろう。
閃き制
戦闘中あるいは戦闘終了時に、特定の条件で新たな技能を習得する。
もっぱら技能の習得のみに使われる。
ロマンシングサガ2から始まる閃きシステムが中でも有名。
これは戦闘中に武器で敵を攻撃した際に、確率で新しい技を習得するというもの。
FF6のモグが使う『おどり』もこれに近いかも。これは戦闘終了時にその時の戦闘地形によって、新しい技を覚えるというもの。
このように技の習得条件に工夫を凝らすことで、新たな可能性が広がるかもしれない。
長所
- 戦闘中に、技を閃くことで戦闘に変化を付ける事ができる。
- いつ技を閃くかわからないので、ワクワク感がある。
- 新しい技を見つけ出すことが楽しい。
短所
- 技を習得するための条件が分かり辛い。最悪、存在自体が埋もれてしまう技も……。
- 運が悪いと、いつまで経っても技を覚えないなんてことも。
- 技を探すために、ゲーム進行が犠牲になりやすい。例えば、サガシリーズではボスに何度も通常攻撃を仕掛けて閃くのを待つなんてプレイスタイルがある。
作品例
サガシリーズ(ロマンシングサガ2以降)
職業制(転職制)
職業についた状態で戦闘などの修練を積むことで、能力が上昇したり、新しい技を覚えたりする。
転職(クラスチェンジ)によって、職業を変更しながら成長していく。作品によって、転職のルールは異なる。
FF5やDQ6のように様々な職業に自由につける作品もあれば、ファイアーエムブレムのように上級職へと順当に上がっていく作品もある。
以下の記述は、前者を念頭に置いている。
長所
- 職業を変更することで、同じキャラクターであってもプレイヤーの好きなようにアレンジできる。
- 振分制や熟練度性と比較すると、良い意味で大雑把なので細かい操作は不要。
- 転職による劇的な性能の変化はプレイヤーにとって強い魅力がある。
- 新しい職業の入手は強いモチベーションとなる。
- システム設計の自由度も高いので、制作者の工夫次第で様々な味付けが可能。
短所
- キャラクターの個性を強く打ち出すには向かない。
- 技能を習得するためには、一時的に弱い職業に転職する必要があることが多い。熟練度制と同じで、成長効率を重視すると自由なプレイができなくなる。作品の難易度が高くなるほど、こういった不満点は顕著になる。
個人的に、この短所で困ったのはDQ7。クリアするまで引き返せないイベントの際に、弱い職業に就いていたためボスが倒せなくて苦労した。
とはいえ、これは特定の場所でしか転職ができないDQ7の仕様による問題であるため、メニュー画面やセーブポイントで気軽に転職できるようにすれば、こういった問題は起こらない。
強化システムの中でも、劇的な変化があるためインパクトは強い。
作品例
DQ3、6、7、9、FF5、10−2
意外なところではペルソナシリーズ(3以降)も職業制に分類できそうだ。主人公がペルソナを切り替えることで、スキルや属性耐性など大幅に性能を変化させられるのが特徴だ。
装備制
手に入れたアイテムを身に着けることでキャラクターを強化したり、技能を習得したりする。基本的にはキャラクター自体が強くなるわけではない。レベル制に並んで、ほとんどのRPGで採用されている。
レベル制と比較すると、応用の幅も広い。以下のような手段で個性化も可能だ。
- 装備品の入手条件。基本はお金だが、魔石を集めて魔法書を手に入れるといったシステムも可能だ。
- 装備できる部位とその数。
- 装備品の性能。単に能力が上がるだけのものから、特殊な効果を持つもの。技能を習得するものまで。
長所
- シンプルで、プレイヤーが理解しやすい。
- お金を貯めて、新しい装備を手に入れるといった分かりやすい達成感を演出できる。
- 装備品を他のキャラクターに付け替える自由によって、戦術の幅が広くなる。
- 成長型の強化システムとの相性が比較的良い。
- 上記のように応用の幅も広い。
短所
- コツコツとお金を貯めて購入した装備品であっても、いずれは使われなくなることが多い。
とはいえ、売ることである程度は戻ってくるけれど。
上述の通り、多くのRPGで採用されている。
また、装飾品などの形式で能力変化に留まらない様々なスキルを付与することもある。
軌跡シリーズのオーブメントなどは特徴的だろう。術の習得や能力の上昇などの恩恵が得られる上に、装備できる箇所も多いためカスタマイズ性が高い。
下記に亜種・応用例を記す。
装備&キャラクター成長制
装備を身に付けた状態で、修練を積むことで、キャラクターの能力が上昇したり、新しい技を覚えたりする。上の職業制にも良く似ているが、職業と比較すると装備品の変更が容易であることが多い。
長所
- 職業性における転職ほど、インパクトはないが、キャラクターの個性を維持しながら、ある程度、成長に自由度を出すことができる。
- 職業の入手と同じく、装備品の入手がモチベーションになる。
短所
- 職業性と類似した問題点だが、成長効率を重視すると、自由な装備変更ができなくなる。例えば、強い武器でも、キャラクターの成長に役立たなければお役御免となる。
- 成長のためにスキルを習得し終わった装備を次々と変更する必要があるなど、手間がかかりやすい。テイルズオブヴェスペリアなんて装備品とスキルの数が異常に多くて顕著。
作品例
FF6、9
FF9はそのまんま。FF6は魔石による魔法習得システムを指している。
FF9やテイルズオブヴェスペリアのような、武器防具にキャラクターの成長要素をくっつけるやり方は短所が出やすい。
FF6の魔石のように武器防具ではなく、別枠を設けたほうが無難かも。
装備&装備成長制
装備を身につけた状態で、修練を積むことで、装備自体が強化される。あるいは、お金をかけて強化するパターンも。
FF7のマテリアが代表格。
長所
- 装備品の入手がモチベーションになるのは上と同じ。
- 装備品を他のキャラクターに付け替える自由によって、戦術の幅が広くなる。
- 性質上、仲間の入れ替わりが激しいRPGにもおすすめ。
短所
- せっかく強化した装備がゲーム進行に応じて、不要になることも。
ただこれは、システム設計次第でどうにかなる。
作品例
FF7、8
意図したものかどうかは分からないが、メンバーの離脱があるFF7と相性の良いシステムだったりする。
FF8のGFもこちらに分類できる。初代ペルソナ(女神異聞録)なども、仲間同士でペルソナの付け替えができるため同様だろう。
まとめ
やはり長年の実績があるだけあって、『レベル制』と『装備制』は欠点が少なく安定感がある。応用次第では、この2つだけでも、十分に長編RPGの強化システムとしてやっていけるはず。
どんな、強化システムを採用するかで悩んだならば、この組み合わせを軸としたシステム設計を考えてみると良いかも。
とはいえ必ずしも、どの型が良いといったものではないので、色々と考えてみて欲しい。
複数の強化システムを複合的に使うことを考えるとやり方はたくさんある。特に多いのは、『能力を上昇させる』場合と『技能を修得する』場合で異なる強化システムを採用しているパターンである。
キャラクター毎に、技を習得する方法が異なるFF6やシャドウハーツ2のような作品もあるし、GBのサガやサガフロンティアに至っては、種族毎に全く能力成長の方法まで異なる。
注意点としては、自由な成長システムはそれ自体は面白くとも、戦闘自体がつまらなくなる危険性を秘めている。
例えば、全員で「みだれうち」を連発するFF5や、全員で、「剣の舞」(あるいは怒涛の羊)を連発するDQ7のように、戦闘内容がワンパターンになってしまう場合もある。
特に強力な回復技を全員が簡単に覚えられてしまった場合はバランス崩壊の危険が高い。そうならないためにも、時には何らかの制約を課すことも検討してみよう。
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