セリフがないからといって、必ずしも没個性とは限らないことに注意して欲しい。また、選択肢の中身については、セリフがあることも珍しくない。仲間に個性が設定されているかどうかでも、かなり雰囲気が変わってくる。
目次
無口主人公の作品例
無口主人公の長所
無口主人公の短所
無口主人公における技法
無口主人公の向き不向き(2023/12/05)
無口主人公の作品例
参考に無口主人公の作品例を挙げてみよう。
ウィザードリィ
主人公も仲間にも全くといってよいほど個性や背景が設定されておらず、名前・職業等も自分で選択することができる。一応、迷宮に探索に来た冒険者という設定だけはあるが、完全に近い無個性と言える。
ドラゴンクエスト
DQ1の時代は、主人公には『勇者の子孫』といった最低限の背景が設定されているだけだった。名前のみを自分で決めることができる。
DQ2では、仲間が追加されたが、セリフは控えめであり、主人公の個性を浮かび上がらせるようなものでは無かった。
DQ3に至って、徐々に主人公の背景が濃くなってくる。『英雄の息子』として、主人公は旅立つことになり、ゲーム終盤にその設定が活かされることになる。仲間も基本的に喋らないので、主人公とのやり取りはない。その個性はほぼプレイヤーの想像に任される形になる。
FC版のカンダタ2戦目のイベントで、主人公(正確には先頭のキャラ)が喋るのは黒歴史。
「あいつは わたしたちに
まかせて! はやく にげるんだ!」
DQ4では『育った村を魔族に滅ぼされた悲劇の勇者』として、主人公は旅立つことになる。
DQ5では主人公の出生や結婚等、自身の人生が物語の中心に据えられている。セリフこそないものの主人公は確たる背景を持った1つのキャラクターとして、設定されていることが分かる。
シリーズが進むに連れて、個性的な仲間達も主人公に関わってくるようになる。
特にDQ7の『マリベル』は主人公に対して話しかけることが多く、主人公も人間関係の輪に含まれていることがはっきり分かる。
DQ8の『ヤンガス』に至っては、主人公に命を助けられたことをきっかけに主人公を兄貴分と慕うようになる。
DQ9では、仲間が喋らない等、DQ3の頃に近い雰囲気に戻る。主人公の職業や容姿が設定できることによって、今まで以上に『主人公=プレイヤー』の構図を強調している。
シリーズを通して、選択肢の内容が『はい』『いいえ』に限られていることも、特徴として忘れてはならない。ただし、DQ8のような路線で、主人公の個性化が行われるならば、この伝統の選択肢もそろそろ限界なんじゃないかと個人的には踏んでいる。
ペルソナ
無口主人公としては、最も個性的なのが、このペルソナシリーズ。元々、源流の女神転生シリーズでは、無個性型の無口主人公が主流だった。このペルソナシリーズでは無口主人公こそ受け継いでいるが、無個性ではない。
選択肢に特徴を持たせて、個性を強調したり、仲間から好意や信頼を寄せられたりと、随所に存在感を発生する。また、容姿や選択肢の内容、仲間との会話からクールな性格を漂わせているのが特徴。作品によっては、一人称(大抵は『俺』)やクセ等も設定されている。
ペルソナ2罪では、主人公『周防達哉』は過去の出来事から無口な性格になったと説明されている。その続編、『罰』では、主人公が交代、達哉が喋る仲間キャラに降格(?)した代わりに、前作でヒロイン格だった『天野舞耶』が無口主人公になるという異例の展開。なお、舞耶は前作で元気な性格だったので、物凄く違和感がある。
ペルソナ3では「どうでもいい」、4では「落ち着け」というように、選択肢の中に頻出するものがある。これを主人公の口癖とも解釈することができる。
その他の例
ポケモン、女神転生、マザー、FE風花雪月、ブレスオブファイア1〜4、幻想水滸伝、クロノトリガー、クロノクロス、聖剣伝説LOM、バハムートラグーン、ワイルドアームズ1、桃太郎伝説、大貝獣物語、ヘラクレスの栄光……等々。
全体的な傾向として、シリーズが進む毎に、無口主人公であっても、個性や設定背景が濃くなっていく傾向にある。中にはブレスオブファイアやワイルドアームズのように、後の作品で喋る主人公になる場合も。
無口主人公の長所
『キャラクターとしての主人公』に余計なセリフを喋らせないことで、『主人公=プレイヤー』であることを強調し、感情移入度を高める。プレイヤーが思ってもいない言動を主人公が取ることで、感情移入を妨げる事態を避けることができる。
主人公が喋らないことによって、会話が短くなりテンポが良くなる事も重要な長所だ。主人公も仲間も一切、喋らないような作品の場合はこれが顕著となる。
また、主人公に喋らせないことで、仲間の個性を強調する効果がある。シナリオ重視の作品において、プレイヤーに仲間の魅力を伝えたいという場合も有効だ。
逆転の発想で、無口であること自体を主人公の個性として差別化することもできる。なんせ、どれだけ登場人物の多い物語においても、他と性格がかぶることはまずないからだ。
無口主人公の短所
その特性上、無口主人公は自分の発言によって物語を牽引することはできない。例えば「魔王を倒さなければ世界が滅ぶ。だから俺達で魔王を倒す!」というような発言をして、プレイヤーへ目的を伝えることはできない。
他の仲間に同様の発言をさせるか、王様などの登場人物から「魔王を倒してくれ!」というように指示を受ける必要がある。
そのため、主人公でありながら、他の仲間に同調したり、指示を受けたりする形で行動しがちになる。自然『お使いイベント』と揶揄されるようなイベントも多くなる。
また、DQ3や9のように仲間も一切喋らない作品なら大きな問題はない。が、そうでない場合は進行上で仲間同士での会話が多くなる場合がある。その際に、主人公が仲間の輪から疎外された結果、存在感が希薄となり、空気主人公と揶揄されてしまうハメになる。
無口主人公とは相性の悪い主人公設定・物語があることも考慮しなくてはならない。例えば、主人公が歴戦の戦士で、過去の知り合いが多数登場するような物語だった場合などだ。
物語中盤で初登場した人物に、いきなり知り合いであるかのように声をかけられたら、「主人公=自分」を前提として考えていたプレイヤーはとまどうかもしれない。
無口主人公における技法
無口主人公には大きな長所があるが、同時に大きな短所も存在することが分かったと思う。そこで、短所を補うため、無口主人公でも物語をうまく進行する方法や、存在感を出していく方法を考えていきたい。
色の付かない設定を与える
先に書いた通り『歴戦の戦士』などの濃い人物設定と無口主人公とは相性が悪い。そのため、物語開始時点では、なるべく色の付かない設定を当てはめる必要がある。やはり、十代後半の若者などが主人公とされることが多い。
また、色が付かないという意味では、記憶喪失の設定とも相性がよく、合わせて使用されることが多い。(ヘラクレスの栄光シリーズ等)
主人公特権を与える
これは前回(主人公と仲間の構成)と重なるが、無口主人公の存在感を出すため、どうあがいても他のキャラクターでは敵わないような『主人公特権』を与える。
- 強大な能力。世界の命運を左右するような物でも。
- 地位。国王・王子、伝説の勇者など。
- 関係性。ヒロインやラスボス等の主要人物と強固な因縁を設定する。
幻想水滸伝1〜2では、主人公が成り行きで『強大な紋章の力』を手に入れたあげく、『軍の指導者』として担がれる。というような流れが序盤に展開される。『強大な能力』と『地位』といった特権を主人公に付けることで、存在感を出しているわけである。
先に述べた通り、無口主人公は自分の発言によって物語を牽引することはできない。
そのため、単なる村人のような設定では「なぜ、主人公が強大なラスボスと戦うのか?」といった動機をスムーズにプレイヤーへ理解させることは難しい。上記のような主人公特権を設定することで説得力を出そう。
例えば……
- ラスボスを倒すには、主人公が持つ特殊能力が必要。
- 主人公は王子として、自国を脅かすラスボスと戦う。
- 幼馴染のヒロインを助けるには、ラスボスを倒さなければならない。
という具合である。
選択肢を用いる
選択肢を掲示することで、主人公が会話に参加しているという空気を出す。選択肢に応じて、どのような変化をもたらすかがポイント。単に会話内容に変化を付けるだけの場合もあれば、後の展開に重大な影響を与えることも。
「はい」「いいえ」の様に無個性なものを用いるか、ペルソナシリーズの様に個性的な選択肢を用意するかでも、主人公に対する印象が変化する。作品に合ったものを考案しよう。
好感度システムのようなものを採用する作品も多いが、ギャルゲーチックになるのが好き嫌いの分かれるところ。どうするかは作品のテーマに合わせて考えよう。
ジェスチャーや感情記号を用いる
無口主人公だからといって、常にイベント中、無反応で棒立ちでは、違和感を拭い切れない。何より、いてもいなくてもいい存在に見えてしまう。
そこで「頷く」「首を振る」「手を振る」等のジェスチャーや「!」「…」「♪」等の感情記号を活用することで、主人公が置いてけぼりにならないようにする。また、最低限のリアクションをさせることで、話を円滑にすすめる。
例えば、「仲間の命が危ない! 助けよう!」というような会話において、常識的に考えて主人公が否定的な態度を取ることはありえない。
このように「選択肢を掲示したくない」あるいは「するまでもない」場合は「頷く」の動作で主人公に勝手に承諾させてしまおう。選択肢を出すよりもテンポ良く話を進めることができる。
自発的に行動させる
物語としては、ある程度、無口主人公にも自発的に行動してもらわなければ進まない。ジェスチャーや感情記号程度では足りないという場合は、もっと積極的に行動してもらう。
例としては、前述したDQ8における、主人公がヤンガスを助ける回想シーンが挙げられる。このシーンの流れを説明すると、以下のようになっている。
- 当時、山賊をしていたヤンガスが、主人公とその主トロデに対して脅迫を行う。
- ヤンガスは武器を振り回すが、足元の吊橋を壊し、崖の下に落ちそうになる。
- トロデは、ヤンガスを見捨てるように言う。
- しかし、それを無視して主人公はヤンガスを助ける。
これは『主人公=プレイヤー』の等式を徹底するDQシリーズとしては異例の展開である。主人公がこれだけ自発的に行動することは珍しく、個人的にとても興味深いと思った。
一連の流れの中で主人公は表情の変化こそあるものの、当然セリフは発しない。プレイヤーの意思を一切介さないまま、ヤンガスを助けることを決断し、行動に移す。
このように無口主人公に対して、自発的に行動させてしまうのも1つの手だ。ただし、余りにも勝手な行動を取らせてしまうと、プレイヤーの心は離れてしまう。人助け等の常識的・良識的な行動を取らせることで、プレイヤーの納得を得られるようにしたい。
相棒を作る
無口主人公の作品において、ストーリー進行を円滑に行うには『相棒』を作る方法がある。ここで言う相棒とは、無口主人公に代わって、セリフを喋る役目を担ったキャラクターのことを指す。
「アイツ 何て悪い奴なんだ! 俺達で懲らしめてやろうぜ!」というような感想を述べさせながら、プレイヤーの行動を誘導してしまおう。
また「わっ! 虫眼鏡で太陽を見てはいけないって学校で習ったでしょう。ボス!」というように、主人公の行動や選択肢に対してリアクションを返すのも役目である。
ポイントは主人公に対して、語りかけるような口調にすること。主人公の意向を形だけでも、伺うようにすることで、主人公の存在感が希薄にならないようにしていこう。
相棒は物語の大半において、主人公に同行するキャラクターである必要がある。DQ9の『サンディ』、風来のシレンの『コッパ』等、必ずしも戦闘に参加するキャラクターである必要はない。
また、必ずしも特定の1人である必要はない。主人公との関係性から、上記のような反応をすることに違和感のないキャラクターならばOK。
仲間や敵に主人公を意識させる
「仲間同士の会話」「仲間と敵との会話」に置き去りにされた結果、主人公の存在感が希薄となる。というのは、無口主人公における大きな悩みである。仲間の個性が強い作品程、この懸念は強くなる。
そこで、主人公に対して『好意』『親愛』『敵視』等、何らかの形で強い意識を向けるキャラクターを作ってみよう。こうすることで、主人公を物語の輪に入れて、存在感を出していきたい。
例えば……
- 主人公に好意を向けるヒロイン。
- 主人公を兄貴として慕う、弟分・妹分キャラ。実の弟妹も当然OK。
- 主人公を主君と仰ぐ召し使い。
- 主人公を頼りにする親友。
- 主人公をライバル視する敵キャラ。
『相棒』と兼業させるのもオススメの方法だ。
主人公の株を奪うキャラクターを作らない
これは後ろ向きの発想になるが、主人公の株を奪いかねないようなキャラクターは最初から作らないようにしてしまおう。
主人公の立場をおびやかすようなキャラクターの特徴。
- 主人公と性別が同じ。
- 身分、立場、年齢等が主人公より上。
- 主人公以上にストーリーの根幹に関わる設定を持つ。
- 容姿端麗。
- モテる。特に主人公よりも、ヒロインと仲が良いと鉄板。
- 高い能力を持つ。
- 頼り甲斐がある。
- 頭が良い。
- 人当たりが良い。
- 行動力がある。
以上のような特徴を多く併せ持つキャラクターは、主人公の株を奪いかねない。というか、そんなキャラクターを作るなら、そっちを主人公にすべきだろう。一部の特徴を満たすキャラクターは当然いても良いが、パーティの中心を奪われないように、何らかの欠点を作っておこう。
例えば……
- 物語の目的に関わる重要人物だが、性格はヘタレ。
- 切れ者だが、偏屈で人当たりが悪い。
- 行動力はあるが、無鉄砲で失敗も多い。
- 途中で裏切ったり離脱したりする。
これは無口主人公に限らず、主人公全般にも言えることでもある。FF12における『ヴァン』に対する『アーシェ』や『バルフレア』がその典型。無口主人公だと自己主張の機会が少ないので、より気を付けたい。
無口主人公の向き不向き(2023/12/05)
作風によって、無口主人公には向き不向きがある。
特に注意したいのは、無口主人公かつ仲間がよく喋る作品だ。
仲間同士の会話中心で物語が進んでしまうと、主人公の存在価値が疑わしくなってしまう。
DQ11やペルソナシリーズ、FE風花雪月といった作品を観察してみると、無口主人公を立てるために相当な配慮をしていることが分かるだろう。
主人公を唯一無二の選ばれし者にしたり、仲間との一対一の交流イベントを用意したり、さらには恋愛要素を導入したりと、あの手この手で盛り立てている。
なお、仲間がよく喋るという点ではDQ7も同じだが、あちらは大きな問題にはならない。
DQ7では原則、プレイヤーが仲間に話しかけることで会話をする仕組みになっているからだ。ストーリー上で仲間同士が自発的に会話をするシーンは、極めて限られている。
ほとんどの会話は主人公と仲間の一対一で行われるため、主人公が置き去りにされることはほとんどない。
ともあれ、前述した配慮のためにゲーム制作者が払うべきコストは馬鹿にならない。ペルソナシリーズの膨大な交流イベントがその典型だ。難しいようなら、無口主人公は避けたほうが無難だろう。
かくいう筆者も宗旨替えをした側である。仲間を魅力的に描こうとすればするほど、この問題に突き当たるようになってしまったという理由が大きい。
どちらかというと、無口主人公はテキスト量が少なく、仲間がほとんど喋らない作品に向いたスタイルだと思う。
あるいは、DQ7のように仲間との対話が基本となる作品ならば、比較的に相性がよいだろうか。
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