宝箱とは一般的に「町やダンジョンを探索する楽しさをプレイヤーに与える」ために存在している。そのため、プレイヤーが手に入れて喜ぶアイテムを用意する必要がある。
けれど、プレイヤーが喜ぶアイテムというのは簡単なようでなかなか難しい。まず、考えなくてはならないのは同じくアイテム取得システムである『店』との競合。店というのは「プレイヤーが戦闘や宝箱などで稼いだお金をアイテムと交換できるシステム」である。
例えば……
- あるキャラクターAの防御力が低く打たれ弱くて困っている。
- 店で売っているAが装備できる防具を確認し、価格を確認する。
- 戦闘やダンジョン探索などをおこない、必要なお金を稼ぐ。
- 防具を購入して、Aは頑丈に。めでたしめでたし。
というような過程を経ることで、戦略的にプレイヤーが利用できるため、作品の面白さにつなげることができる。
対して、宝箱というのは「そこら辺に落ちている箱の中にアイテムが入っているシステム」である。何せ、プレイヤーから見ればどこに何があるか全く分からないのだから、戦略的に利用することは難しい。
※2回目のプレイならば、どこに何があるかは分かるので、戦略的に利用することも可能。もっとも当講座では基本的に初回プレイを第一に考えるので置いておきます。
「苦労してお金を貯めて店で購入した武器と同等以上の武器が次のダンジョンに落ちていた」などという経験はないだろうか? 恐らく多くの読者が「あるある」と思っているはず。これこそが正に宝箱という要素の難しさを表している。
こうしたことがないよう、制作者側が店などの他要素と競合しないように、適切な宝箱配置を行いたい。
まず、有効なのは店で販売している品とは競合しないアイテムを宝箱の中身とすること。例として……
- お金
- DQシリーズの種など、能力上昇アイテム
- 魔法・特技が取得できる本など、技能習得アイテム
- DQシリーズの小さなメダルなど、集めることで他の品と交換可能なアイテム
- 特殊な効果を持ったアクセサリ
お金は意外な盲点かもしれないけれど、プレイヤーに使い道を委ねることができるのが利点。能力上昇アイテムや技能習得アイテムは、装備品とは競合しない強化手段として有効。小さなメダル系アイテムは交換できる品も個性的な物を用意する必要があるので、うまく工夫しよう。特殊な効果を持ったアクセサリについては、あえて店で販売している品の効果を抑えると、差別化になる。
では、武器や防具は宝箱に入れないほうがよいかというと、方法もある。
例えば、武器・防具などでも特殊効果や耐性といった点で店の販売品とは一線を画しているならば、プレイヤーによって工夫の余地が生まれる。考え方としては上記の「特殊な効果を持ったアクセサリ」に近い。単純な性能で販売品を超えていないことがポイント。
もちろん、最初から店には大した装備を置かずに宝箱を優先させるのも自由。その方法でも競合は避けられる。
また、複数のキャラクターが同じ種類のアイテムを装備できる場合は『お下がり』として活用できる。DQで例えれば、「拾った鋼の鎧を勇者に装備させて、代わりに勇者が装備していた鉄の鎧は戦士に回そう」とかそういう感じ。この場合なら、事前に鉄の鎧を店で買っていたとしても、使い道が生まれるので完全には無駄にならないはず。
お下がりにすらできない場合も、店で売ることで換金アイテムとしての使用方法が残されている。当然ながら、お金に不足しない作品では換金アイテムとしてもありがたみが薄いことに注意しよう。
『お下がり』と『換金』の要素は地味ながらも重要だと思う。宝箱の中身として装備品を配置する場合は常に意識しておきたい。この辺りの調整はDQシリーズが上手である。
ちなみにDQシリーズでは、宝箱から入手できる装備品の中で、店売品を単純な性能で上回る物は非常に限られている。例えば、ファミコン版のDQ3だと『稲妻の剣』『光の鎧』『勇者の盾』など。
最初に向かう『岬の洞窟』には、その時点で店売り最強の『皮の鎧』よりも1ランク下の『旅人の服』が置いてある、という調整も興味深い。
HP回復などの消耗品は宝箱のアイテムとしては格が落ちる。序盤でHPを回復する手段が乏しい場合はよいけれど、魔法などによる回復手段が充実してくるに従い、次第にプレイヤーから見てどうでもよくなってくる。
特にアイテムの所持数に制限がある作品は気を付けたい。何かを手に入れるたびに所持品を整理する必要があるとストレスになってしまう。
「消耗品などの価値が低いアイテムを配置するな」とまでは言わないけれど、やはりプレイヤーから見て喜ばれるアイテムを適度に混ぜることで、プレイヤーのモチベーションを持続させるように努めたい。
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